書感:スマホ脳(SNSの見過ぎには気を付けましょう・・・)
書籍『スマホ脳』を読みました。
本書は、人間の進化の観点から、人間の脳がスマホ(特にSNS)に上手く適応できないことを示した書籍です。
脳がスマホに適応できないと言うより、SNSやスマホが人間の脳をハッキングしてひたすら注意を惹きつける様に作られている&使いすぎの結果として集中力が喪われたり、うつ病等につながる可能性が高まるので注意せよ、と言う内容ですね。
タイトルからは、スマホ使いすぎると、脳がスカスカのおバカ脳になるとかって内容かと思いましたが、そうではありませんでした。
人類の進化の経緯から、人がストレスや不安を感じる仕組みやSNSの通知が興味を引く仕組みを説明しています。また、そのことによる生活や睡眠不足、ひいてはうつ病などへの影響、とりわけ子供への影響について、推測しています(変化が早すぎて研究も追いついてない領域なので、推測にならざるを得ない)。
個人的には、脳がスマホやSNSの通知に抗えない理由の解説が面白く、さもありなんと納得してしまいました。
それでは、スマホやSNSの魅力に抗えない理由や、魅力に屈した結果の影響について概要を記したいと思います。
一足飛びに上記の説明に行く前に、「ストレス」、「不安」を人間がなぜ感じて「うつ」になるのかを説明した後に、スマホやSNSの魅力の話に移っていきます。
まず始めは、「ストレス」です。
人類は、歴史上の大半の期間で常に危険にさらされていました。危険な動物の脅威や飢餓、病気、人間同士の暴力・殺人・・・これらの脅威に即座に反応し、素早く動き「闘争か逃走か」のどちらかを素早くできるようにしたのが「ストレス反応」で、だから「ストレス」を感じると心拍数が上がり即座に戦う or 逃げ出すことができるように体が準備をします。
また、ストレスを感じると冷静に考えられなくなりますが、これもじっくり考える前に行動せよという体の反応と考えられます。目の前に猛獣がいるのにじっくり考えてる暇はないですからね。とにかく行動を起こすことが、人類が生き延びるのに役にたったのでしょう。
言い換えると、人間(というか動物)の基本的欲求よりも、ストレス反応の方が上位に来ます。目の前に危険が迫っているのに、睡眠、消化、繁殖を優先してはいられませんので。なるほど、確かに目の前に飢えたライオンがいるのに繁殖行為をしてる場合じゃないですよね・・・。
続いて、人が「不安」を感じる理由を説明しています。
「不安」というのは、「起きるかもしれない」という脅威です。これから発生するかもしれない脅威に対して、事前に体をスタンバイさせるのが「不安」の役割です。かつては、草むらの陰から急に蛇が飛び出してきたかもしれないですし、突然、隣の部族に襲われたかもしれません。そうした時に、音やにおいやその他の何かから感じる「不安」により、突発的な事象にすばやく対処できるようにする意味があったのだと考えられます。恐らく、その意味では、ストレス反応と同じく、不安を感じる能力により、生き延びる確率が上がったのでしょう。
更には、「うつ病」も人類を守る反応だったのではないかと言います。
「うつ」は、食欲を減退させ、閉じこもり、性欲を失くす。それはどれも、生き延びて遺伝子を残す可能性を減らす行為にも関わらず、です。
うつを引き起こす原因として一番多いのは、長期のストレスです。古代において、長期のストレスをもたらすのは、飢餓や感染症、戦争などでした。それは、通常よりも危険で満ち溢れた状態です。その為、強いストレスに長期間さらされると、脳は危険が<b>そこら中</b>にあると解釈し、頭から毛布(があったかは分からないが)をかぶって隠れていろ、と脳が命令するのだとか。
もし脳が現代社会に完璧に適応していれば、長期のストレスを受けたらより一層実力を発揮する方向になっていたかもしれません。少なくとも、現代のストレスは、頭から毛布をかぶって隠れたところで解決はしないのだから。しかし、残念ながら、脳はその様に進化はしておらず、ストレスは「ここは危険」という意味であり、逃げるや隠れるがその解決策として取られてしまうのです。
そしてこの説の裏付けとして、うつを引き起こすことに関係する遺伝子は同時に免疫機能をキチンと作動させる役割も担っていることをあげます。つまり、免疫機能をあげると同時に、危険や怪我、感染症から距離を取らせるために、うつ状態にするのではないかとのことです。
古代において生き残ることが出来た生き物は、必ずしも強い生物ではありませんでした。上手に危険を回避し、環境に適応できた種が生き残ったのです。
その意味で、人間に備わる「ストレス」、「不安」、「うつ」といった反応も、種の存続に意味があったから残っていると言えます。
では、スマホやSNSを使うのを止められないのは、どの様なメカニズムによるものでしょうか?
その主役は「ドーパミン」なのだそうです。
「ドーパミン」は良く脳の報酬物質(=ドーパミンが放出されると幸せだと感じるとされる)だと呼ばれるそうですが、実は、「ドーパミン」の最も重要な役割は、何に集中するかを選択させることなのだそうです。
ちなみに、満足感を与えるのは「体内のモルヒネ」である「エンドルフィン」が大きな役割を果たしているようです。ドーパミンは目の前にある美味しいものを食べるように仕向けて、それを美味しいと感じさせるのはエンドルフィンということですね。
さて、脳は常に新しいものが好きということはご存じでしょうか?
進化の観点では、人間は新しい知識を常に仕入れることにより生き延びる可能性を高めてきました。
天候の変化がライオンの行動にどう影響するのか。カモシカが注意散漫になる状況は? それが分かれば狩りを成功させる確率が増し、猛獣の餌食になる可能性が減る。周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる。。。その結果、人間は新しい情報を探そうとする本能を得た。
この本能の裏にある脳内物質が「ドーパミン」となります。つまり、脳は、新しい情報があることが分かると「ドーパミン」が放出され、そちらに注意が行くように出来ているのです。また、結果がハッキリ分かっていることよりも、「かもしれない」ことの方により「ドーパミン」が放出されます。
これは、例えば、狩場や採集の場にエサとなる動物や採集対象の実がある「かもしれない」ときに、せっせとその場に向かった人間の方が生き延びやすかったということなのでしょう。だから、毎回必ずあたるものではなく、ギャンブルの様に時々あたるものの方が強く惹きつけれられてしまうのです。
その観点で、SNSは、こうした本能を巧みに利用していると言います。何か大事な更新がないか、「いいね」がついていないかを確かめたいという欲求を起こさせる様に作られています。
例えば、あなたの休暇の写真に「いいね」が付くのは、誰かが「いいね」を押した瞬間ではなく、親指マークやハートマークが付くタイミングが保留される場合があるのです。これは、私達の報酬系が最高潮に煽られる瞬間を待ち、刺激を少しずつ分散することで、デジタルなご褒美への期待値を最大限にすることにも繋がります。
こうして、スマホやSNSは、利用者が一秒でも長く、より多く利用するように、行動科学や脳科学の知見を使って作られているのだそうです。
その結果、スマホやSNSは集中力を妨げ、睡眠時間を削り、絶えず多くの他者との比較を可能にして「不安」を煽り、「ストレス」を与える存在となってしまっている、ひいては、iPhoneが普及したころから急激に「うつ」で診療を受ける人が増えたと主張しています。
「うつ」と「スマホ」の因果関係はまだ明確にはなっていないですが、見る専門の人の方がうつになりやすいそうなので、スマホ(SNS)でうつになる人は、絶えず(あまりイケてないと思っている)自分と、スクリーン内の(良さげに見える)人たちとを比較して、自己卑下に陥っているのではないかと、推察されています。
その他にもフェイクニュースなどにより社会の分断が促進されることや、その他の影響についても述べています。ちょっと何でもかんでもスマホやSNSのせいにしすぎではないかと思いますが、まぁ、言ってることは分からなくはありません。
しかしながら、新書サイズのコンパクトな書籍なので、根拠の部分についてはそれほど明確ではありませんし、スマホやSNSの悪影響に関する部分についてはそういう可能性もあるよね、くらいに捉えて、今までよりもスマホ依存度を少し減らすくらいで良いかな、と思いました。
大事な時にはスマホを別の部屋に置いてくるなど、スマホやSNSを気にしないで済むようにするとかですね。(在宅勤務時に、目につくところにスマホがあると気が散るしなぁ・・・)
上手く伝えられたかは分かりませんが、本書で面白かったところは、人間の進化の過程で必要とされた「ストレス」や「不安」、ドーパミンなどの「報酬体系」がなぜ存在していて、スマホやSNSが、どの様にこれらの仕組みを活用(悪用?)しているのかを解説しているところですね。
本書では、それらにどう対処すれば良いかもいくつか書かれているので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
それにしても、最近は、タイトルのキャッチーさと内容があまりあっていない記事や書籍が多いですよね。。。まず手に取ってもらわなければいけないというのは分かるのですが、「名は体を表さない」書籍や記事はあまり好きではありません。
本書は、内容は悪くはないけど、タイトルとはあまり合ってないと思うし、表紙のイラストに至っては完全にミスリードだろうって思うので、その点では減点です。
ということで、SNSをただ見てるだけの人が一番不幸になるらしいので、見る専の方は使用時間を半減させるとか、1時間に5分だけ見るとか、何かしら制限を付けてSNSから距離をおくことをお勧めします。
ではまた。
書感:LIMITLESS 超加速学習 - 人生を変える「学び方」の授業(さぁ、俺たちの真の力を解放しよう!)
書籍『LIMITLESS 超加速学習』を読みました。
本書は、自身の限界を超えるための「学び方」を学ぶための書籍です。
著者自身が幼いころに頭部を打つアクシデントにより学習に苦労するよう(学習障害状態?)になり、その状態から抜け出した経験をベースに開発してきた「学び方」を解説した書籍です。
特に、「世の中の偉人たちと同じような凄いことを成し遂げる能力なんか自分にはない、自分には無理だ」と思っている人たち、もしくは、もっと小さいことでも「自分にはできない」、「何回やってもできなかった」と、自分自身の限界(リミット)を感じている人向けの書籍となっています。
誰もがそのリミットを取っ払って、今の自分ができると思っているレベルを超えて進歩する為のノウハウを学ぶことができます。
著者は、次の3つのMを手放すことができれば、自分自身のリミットを軽々と超えて進歩することができると説きます。
- マインドセットのリミット:自分自身に、また自分の能力や価値や可能性に高い期待を抱けない
- モチベーションのリミット:意欲か目的化エネルギーが足りないので行動を起こせない
- メソッドのリミット:望む成果を得るための効果的な手段を教わっていない、または実践していない
これらのリミットから解放されれば、リミットレスな理想の人生に近づける・・・と。(こう書くとなんか怪しいけど)
では、各リミットについて、抜粋して紹介したいと思います。
まず、マインドセットのリミットについてですが、「内なる声に支配されるな」の一節にとても共感しました。
自己を制限する固定観念は、その人のセルフトークによく現れる。セルフトークとは、自分がうまくできることや、できるようになろうとしていることではなく、できないと思い込んでいることにフォーカスする内心の会話のことだ。・・・中略・・・「内なる声は、あなたを捌き、疑い、見くびり、能力が足りないと言い続けます。否定的で傷つくことも言います。」・・・中略・・・「内なる批判は無害ではありません。あなたの中に棲みついて、あなたを制限し、本当に望んでいる人生を追求するのを妨害します。心の安らぎや感情の安定も奪い、長く放置すると、うつや不安などの深刻な精神衛生上の問題を引き起こすおそれもあるのです」
私自身は自己評価が低く、よく内なる声に批判され責めさいなまれたりしているのですが、確かに害悪があるよなー、と実感しています。
この内なる声を打破し、乗り越えるためのステップとして、以下のキーポイントが書かれています。
- 固定観念の存在に気づく:自分自身を批判する声に気づいたら、それに注意を払う
- 根拠を確かめる:その声の根拠となる事実がどのくらいあったか、また、その結果がどうだったかを確かめる(根拠と逆だったことがなかったか、その結果は自分が恐れるほど酷いことだったかも)
- 新しい信念を作る:2で確認した事実の中からポジティブな側面を切り取った新しい信念を作る(例えば、「自分はいつも肝心な時に力を出せない」と思っていたが、事実を確認したら、プレッシャーがかかると緊張してときどきミスをするが、本当に失敗だったのはほんの数回で、実際には「土壇場でヒットを放った」ときもあった場合、新しい信念は「最も重要な場面で10割ヒットを打てる人はいない」が「プレッシャーが最高潮の時に何度か最高のパフォーマンスを発揮できたことは誇っていい」となる。)
続いて、モチベーションのリミットについてですが、こう書かれています。
よく「モチベーションが湧かない」と言う。モチベーションは湧いたり湧かなかったりするものではない。
「やるかやらないか」である。
モチベーションはプロセスだ。そして戦略でもあるので、自分で制御できる。
正しい手順を踏めば、だれでも確実に生み出せるのだ。
そして、モチベーションの公式を示しています。
モチベーション=目的×エネルギー×S3(Small Simple Step:小さく簡単なステップ)
ここで一番重要なのは、やろうとしていることの目的=「なぜ」それをやるのかが明確か、心の底から納得がいっているか、です。ここが明らかになれば、やらないことも明確になります。
でも、多くの場合、この「なぜ」が腹落ちしていないから、強いモチベーションもないし、物事の優先順位が付かず、大して重要ではないことに時間を費やしてしまったりするのです。。。(反省・・・)
最後に、メソッドのリミットですが、集中力の高め方、記憶のテクニック、速読法、など実践的なテクニックが並んでいます。
著者曰く、時代遅れの教育システムである学校では、「何を学ぶか、何を考えるか、何を覚えるかを教わるが、どう学ぶか、どう考えるか、どう覚えるかを扱う授業はあったとしてもとても少ない」と言います。
確かに、いまは様々な教育法が研究され、アクティブラーニングなんかも実践し始めたりしていますが、基本的には、先生が教科書に沿ってポイントを説明し、生徒や学生は、理解したり記憶したりというのが基本かと思います。もっとも根本的な「学び方の基本」である考え方や覚え方を教えることはほとんどないのではないでしょうか。
ましてや、集中する方法なんて習った記憶がない。。。
ともあれ、このパートで扱われているテクニックですが、こんなに簡単に実践できる方法を教えているのを見たことが無かったので、結構衝撃的でした。
例えば、記憶のテクニックで、例題として“消火栓、風船、電池、樽、板、ダイヤモンド、騎士、雄牛、歯磨き粉、看板”という単語の羅列を、30秒以内に順番通りに覚えなさいというのが出て来るのですが、普通にやったら無理ですよね。。。
ところが、本書にある方法を使ったら簡単に覚えられた上に、一日経っても忘れず思い出せるんです!
これにはホントに驚きました。(気になった人は、ぜひ本書を読んでみてください)
また、速読法についても書かれていますが、こちらも試してみたらすぐに1分間で1300文字以上のペースで読めるようになりました(日本語の場合は、1分間で400~600字くらいが平均的な読書スピードだそうです)。
これらのテクニックは筋肉と一緒で練習してないとすぐに衰えるようですが、ちょっとトレーニングしただけでこんなにも簡単に能力を引き出せることを実感できたのは、なかなかに衝撃的でした。
もちろん、1つ1つのテクニックはどんなシチュエーションにも使える万能テクニックではないので、適材適所での使い分けや、自分のシチュエーションにあった応用とかは必要になりそう(例えば、英単語の発音方法を覚えるのに、上述のテクニックをそのまま使うのは難しそう)ですが、使える所だけ使うだけでもかなり効果がありそうです。
ともあれ、本書で一貫して説かれる重要なメッセージは、(文字通りの意味で)誰でもいまの限界を超えて進歩できるということでしょうか。
もちろん一晩でいきなりスーパーな力が身につくことは無いので、こつこつ努力を続ける必要はあるのですが、それを可能にする実践的なテクニックが書かれているのが、本書の素晴らしいところです。個々のテクニックは、1つ1つは一部を除いてそれほど劇的でもないのですが、逆を言うと、誰でも実践できるテクニックばかりです。
なので、本書に従って愚直に実践をしたら(なかなかモチベーションが続かないという人も大丈夫。モチベーションを引き出すためのテクニックも書かれています)、大きく進歩できる様になること間違いなしです。
さぁ、皆さんも自分で作ったリミットを突破し、リミットレスな世界へ旅立ちましょう!(なんだこれ?)
と言うわけで、前回の更新から非常に間が空いてしまいましたが、止めた訳ではないので、気長にお待ちいただければと思います。
ではまた。
書感:失敗の科学(冗談でもなんでもなく全人類が読んだ方が良い書籍です ~ 特に、政治家や法律家、経営者、管理職など物事を決める立場にある人物は絶対に!)
ご無沙汰しておりました。久々の投稿になります。
今回は、書籍『失敗の科学』を読みました。
本書は、医療業界、航空業界、裁判、政治など一つの失敗が取り返しがつかない業界/領域から、製造業、報道業界、IT業界、スポーツ界、学生を使った実験、など様々な分野での失敗事例の分析を通じて、『あらゆる失敗に通じる「原因」と一流の組織が備える「学習システム」のすべて』を明らかにした書籍です。
これまた超有名書籍ですが、いまさらながら初めて読みました。
本書では冒頭で述べた通り、様々な業界/領域での事例を通じて、なぜ失敗が起きるのか?また、その失敗から学ぶことの重要性について、繰り返し繰り返し説明します。
また、一つ一つの事例が、その失敗の発生過程を非常にリアルに再現し、まるでその場にいる(けど、その様子を客観的に見ている)かのような気持ちにさせるくらいにリアルに描写します。正直に言って、その様子はハタから読んでいる分には、当事者たちがなぜそのような愚かな行動を取っているかが分からないのですが、その後の解説によってどうしてそういう行動を取ったのかが分析され、なるほどー(・・・⤵[でもガッカリ])と思わされす。
また、どれだけ失敗を繰り返してもほとんど改善しない権威主義的な業界/組織(医療業界/刑事司法/他)と、失敗から学び改善に努める業界/組織(航空業界/IT起業家/他)の違いも鮮明に浮き彫りにします。
事例の中には、死亡者が出たり人生に取り返しのつかないダメージを受ける深刻なものがあるだけに、読んでいて苦しい想いになるのですが、それが更に、人為的なミスによるもので、かつ、その失敗を認めない見苦しい当事者たちの態度を読むにつけ、暗澹たる気持ちにさせられます。(そこまで深刻じゃない事例も相応にあるのですが、どうしてもメンタル的に重くのしかかるので、印象の度合いとして深刻なものの方が強く残ってしまうのですよね・・・)
本書の最初の事例は、幼い子供2人の母親エレイン・ブロミリー(37歳)が副鼻腔炎の手術における事例です。
執刀医は30年を超える経験を積んだベテラン医師。麻酔科医も16年のキャリアがある、これまた十分な経験を持つ医師で、病院の設備も素晴らしく申し分のない状況でした。
ところが、簡単な手術のハズが、麻酔後の呼吸を補佐する喉頭マスクの装着が出来ないという想定外の事態に2人の医師は手間取ります。2分後にはチアノーゼ(呼吸ができないことなどにより皮膚や粘膜が青紫色になる現象)を起こし始め、血中酸素飽和度が75%まで下がる状態になりました(通常90%を切った段階で「著しく低い」と見做される)。代替手段として、酸素マスクを使うが効果がなく、気管挿管もうまく行かない。緊急事態に応援の医師も1名駆け付けました。
悪化し続けるエレインの血中酸素飽和度(モニターに表示できる限界の40%にまで落ちた)と心拍数(50bpmまで下がった)を見て、こうした事態の最終手段として気管切開の準備をベテラン看護師が行います。ところが、ベテラン看護師の「気管切開の準備ができました」という発言にベテラン医師達は何の反応を示さず、ますます躍起になって、口から気管へチューブを通そうと作業に没頭してしまいます。
看護師は、もう一度声を掛けようかと迷いましたが、経験豊かな3人の医師が気管切開という選択肢を考慮していないハズがない、自分には思いもよらない理由があって気管切開は選択肢から外されているのかもしれない、声を掛けることによって先生たちの集中力を削いで事態の悪化を招いたら・・・それに、私も経験を積んだとはいえ先生たちよりもずっと若手であると考え、声をかけられずじまいでした。
その後も医師たちは、さらに心拍数が落ちて(40bpm!)、明らかな酸素欠乏状態になっても、ますます口からの気道確保に躍起になり、気管挿管を再度試し、新たな喉頭マスクの挿入も試しましたが、何ひとつうまくいきませんでした。
その後、なんとか酸素飽和度は90%にまで戻りましたが、しかしこの時点ではもう手遅れでした。使われることのなかった気管切開の準備から8分も経過していたからです。酸素欠乏状態になってからは、20分もの時間が過ぎていましたた。医師たちは時計を確認して愕然としました。いつの間にそんな時間が経ったというのか?
そう、この愚かな執着は、医師たちは目の前の事象に集中しすぎていて、時間がどのくらい過ぎているか認識していなかったことに起因していたのです。。。
結局、エレインは集中治療室に移されましたが、脳には壊滅的な損傷が見られました。そして、その13日後には昏睡状態のまま亡くなられました。
手術当日の午前11時(手術開始は8時半)に、主人のマーティン氏は病院に呼び出されエレインさんの状態について聞かされます。
『麻酔の段階で問題が起こりました。』、『避けようがありませんでした。こういうことはときどき起こるんです。原因はわかりません。麻酔科医らは最善を尽くしましたが、どうしても状況を変えることができませんでした。大変残念です。偶発的な事故でした』と。
気管挿管に何度も失敗したことへの言及はなく、緊急処置の気管切開が行われなかったことについても一切触れられませんでした。もちろん、最悪の事態になる前に、看護師が気管切開の準備をして医師たちに声を掛けていたことも。。。
うーん・・・何度も読み返しても身につまされるエピソードなのですが、単純にこの事例を「けしからん!」といってこれらの医師や看護師を責めても問題は解決しないと言います(理由は後述)。
このような医療業界の事例と対比して航空業界の事例も取り上げられます。両者ともに人の命を預かる業界ですが、両者の安全性には大きな違いがあります。医療の方が恐らく複雑ですし、そもそも病気というリスクを抱えた状態での行為なので、一概には言えないのですが、それでも安全を最大限重視しなければいけない二大業界における組織文化や心理的背景の違い、そして、失敗に対するアプローチの違いが、安全性の違いに大きく寄与しているという本書の分析には説得力があると思います。
航空業界では事故が発生した場合、ほぼ破砕不能なブラックボックスに収録された「飛行データ」と「コックピット内の音声」を回収・分析して、事故の原因が究明されます。そして、二度と同じ失敗が起こらない様に速やかに対策が取られます。これは、航空会社による程度に差はあれど、業界全体での取り組みとなっており、『過去の失敗から学ぶ努力を絶やさない』業界と評されています。
対して、医療業界では、アメリカ国内の調査で年間5万人~40万人も回避可能な医療過誤によって死亡しているとされます(複数の調査による)。ある医師は、これは『ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものです。あるいは、2ヶ月に1回「9・11事件」が起こっているに等しい。回避可能な医療過誤がこれだけの頻度で起こっている事実を黙認することは許されない』と米上院公聴会で発言したそうです。これは、アメリカにおける死因のうち、「心疾患」「がん」に次ぐ第3位に浮上するとのことです。しかも、老人ホームでの死亡率や、薬局や個人病院(眼科や歯科を含む)は調査対象外でだそうです。
それだけではなく、死には至らない深刻な医療事故も数多く発生していて、例えば、ある女性ががんのために両側乳房切除の手術を受けたが、術後間もなく、生検結果の取り違えがあったこと、さらにがんはまったく発症していなかったことが発覚した事例(酷い・・・)などです。
こうした事故は命にはかかわらないものの、被害者や家族にとっては悲惨な出来事であるし、人生に大きな影響を与えるこうした医療過誤による深刻な合併症や後遺症で苦しむ患者の数は、死亡者数の10倍にのぼるとの試算も出ているとのこと・・・ホントに恐ろしいです。
さて、このような違いを生む要素のうち、重要な概念である「クローズド・ループ」と「オープン・ループ」という概念について紹介したいと思います。(この用語は、本来、制御工学で用いられる用語ですが、本書では意味が異なるとのことです)
本書での定義
- 「クローズド・ループ」:失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す
- 「オープン・ループ」:失敗は適切に対処され、学習の機会がもたらされる状態を指す
クローズド・ループの例として、「瀉血(しゃけつ:西暦2世紀、ギリシアの医学者ガレノスが広めた血液の一部を抜き取る拝毒療法)」や水銀療法など、医学の黎明期に広まった治療法について触れています。これらの治療法の多くは、実際の効果がないばかりか、なかには非常に有毒なものさえありました(瀉血に関して言えば、病気で弱った患者からさらに体力を奪い、大勢の患者が亡くなっていました)。しかしながら、これらの治療法は、永らく一般的な治療法として広く認められていました(瀉血は19世紀になるまで広く行われていた)。
当時の医師たちがこのことに気づかなかった理由は、治療法が良いか悪いかについて、一度も検証しなかったからだと言います。つまり、瀉血を受けた患者の調子が良くなれば「瀉血で治った!」と信じ、患者が死ねば「よほど重病だったに違いない。奇跡の瀉血でさえ救うことができなかったのだから!」と思いこんだからなのだと・・・(うーん、思い込みは怖いですねぇ・・・企業の現場でもいたるところで発生している気もするけれど。)
オープン・ループの例は、先の航空業界の例が挙げられるでしょう。失敗から学び、改善策にフィードバックするループを繰り返すことですね。
さて、本書の秀逸な点は、ここで終わるのではなく、なぜこのクローズド・ループに陥ってしまうのかを様々な事例を通じて炙り出していることと、オープン・ループによる成功事例を多くあげて、感情的にクローズドに陥りがちなところを、具体的なメリットを提示して(理性で?)オープン・ループに向かおうを思わせようとしているところかと思います。
感情面で言えば、
- 失敗をすると強く責められる環境にあると、失敗の原因を隠蔽して無かったことにしようとする=クローズド・ループに陥りやすい(というよりほぼ100%陥る)
- ある選択をするまでに掛けた労力が大きければ大きいほどその選択が失敗であったことを認めたくなくなる=選択した方の事柄に何らかの意義があるものとして扱いたくなる
などが挙げられています。先の医療ミスも短絡的に関係者を責めてしまうと、上記理由によって、より一層隠蔽しようするように誘導してしまうということです。
また、
- 慣習としてミスを隠蔽して認めないことが正しいと思い込んでしまうという組織的な伝統
の存在も挙げていたりします。要は、「以前からこうするのが当たり前という先輩たちが山ほどいる中で、新参者 and/or 若者(相対的な年齢や組織内での経験年数などの意味での若者の意。絶対的な年齢での若者だけが対象ではない)一人が何を言っても勝ち目がない状態」ってことですかね?
あー、こーゆーのあったなぁ・・・ミスを隠蔽したところでお客様の信頼を獲得できる訳でもなく、状況の改善にもつながらないのに、自分達の責任にならない様に、ならない様に・・・と一生懸命(無駄な)知恵を絞っていた(前職以前の)先輩社員たちが目に浮かびます。
個人的な意見ですが、よほど道義に悖(もと)るようなミスでない限り、さっさと顧客に問題やヤッてしまったミスなどを報告して、リカバリの方策について説明したり相談に乗ってもらった方が(あとで問題が大きくなった後に発覚するよりは)よほど被害もリカバリに費やす労力も小さくて済むし、最終的には信頼の獲得にもつながると思うのですよね。
多くのお客様は、あらゆるミスが発生しない(と見せかけられる)ことよりも、正確&迅速な報告と、発生した問題へ適切に対処することの方が好まれると思います。もし、それが許されないのだとしたら、既にその時点で信頼を失っていることの証左であると捉えた方が良いかと・・・(もしくは、筋の悪いお客様(とは言ってはいけない人種)か・・・)
さて、それはともあれ、上記のことを鑑みると、新しいことへのチャレンジにおいて、早い段階でどんどん試して誤りを発見していくことには、とても大きな価値があることが分かります。
粗い段階でアイデアを試したり、完成度が低い段階で製品やサービスを市場に投入することに抵抗を感じる人は多いと思うのですが(そんなことしたら信頼を失うのではないか?とか、アイデアが流出してライバルに真似されるのではないか? とか・・・)、学習面でも心理面においても、成功したいのであれば、逆に早めに試さなければいけないということなんですよね。
最初から完璧なものを作ろうと思っても、購入したり利用したりするユーザーが望むものを、実際に提供して観察せずに何が正解かを100%完璧に想定することは恐らく不可能です。また、失敗してやり直すにしても、投資した労力・時間・費用が大きくなればなるほど、失敗したことを認められなくなります。だからこそ、投資する資源が小さい段階で検証して、軌道修正を繰り返すべきなんです。そうすれば、失敗から学んだことが意義のある投資にになりますから。。。
それが大き過ぎると「失敗=倒産」ということになりかねません(あれ、大手製造業で企業解体に追い込まれている事例がいくつかあったような・・・?)。
また、小さな実験段階では、よほど分かり易く、かつ、大々的に意図を公表しない限り、ほとんどのアイデアは真似されません。そもそも誰も注目してないでしょうし、仮に見てる企業があったとしても真似するほどのアイデアには見えない可能性が高いので。(新しいアイデアなんて失敗率が非常に高いので、そのアイデアの失敗から学べることを盗むつもりでもない限り、真似する価値が無いのです)
でも、何かしら達成したいことがあり、その実現方法を発見するために意図的に失敗込みの実験を繰り返す場合には、大きな価値が出てきます。もちろん、それには、達成したい目標なりビジョンなりがある必要はありますが。。。
あー、なんかこれ書いていたら、これまで「失敗したらどうするんだ? お前は責任を取れるのか?」とか(責任を取るのがお前の仕事だろ、アホ上司(役員)め!)、「成功しすぎたら顧客のニーズをどうやって満たすんだ?(そんな簡単に新規顧客を獲得できねぇって、さっき言ってただろうがよ!)」とかなんとか言って、とにかく新しいチャレンジをやらせまいと、僕に煮え湯を飲ませて来た(以前所属していた企業の)上司どもの目の前に「だからお前たちはダメなんだよ!」と本書を叩きつけてやりたい気分になってきた・・・
(じつは過去に研究開発チームのリーダーをしていた時に、何度も何度もあれこれ無理難題を言われてアイデアを潰されてきたんですよ・・・100%成功する新規研究開発なんてあるわけねーだろ!? 100%成功する時点で研究開発じゃねーんだわ!って思ってました。ちなみに、失敗から学ぶコンセプトでも企画を提示したことがありましたが、「お前の勉強のために金を出すんじゃねーんだよ?!」と凄まれました・・・そんな会社やめて正〇△×ぐふっ・・・ちなみに私が出したアイデアの内、いくつかは他社さんが後日サービス化して成功してました・・・涙。もちろん、ダメだったものの方が多かったですけどね)
と、話が逸れましたが、本書では、航空業界と医療業界の対比がたびたび出て来て、航空業界はオープンで医療業界はクローズドとされるのですが、航空業界の場合は、事故が起きたときに被害者が多すぎて隠しておくことは不可能であるというのもあるのかな。。。と思ったりします(ほとんどの方が亡くなれてしまいますし・・・)。
また、原因究明と再発防止策をしっかり打ち出さないと、それこそ顧客離れが進んでしまうというのもあるでしょう。
あとは、航空機の場合、機長やスタッフ、もしくは、機体の整備不良などが原因だったとしても、それが直接エアラインという企業全体の過失にはなりにくいので、原因を公表しても、企業全体のダメージになりにくいというのもあるのでしょう。私の浅い知識では、航空業界の場合は、一度のフライト事故で航空会社が倒産するというのは聞いた記憶がありません。航空業界は、基本的には寡占された業界なので、一度の事故で倒産にまではなりにくい構造の業界なのかな?と思ったりもします(調べてないので、間違っていたらごめんなさい)。もちろん、事故の原因があまりに酷い企業体質によるものだったりとか、事後の対応も酷いなどがあれば分かりませんけど。
それに対して、医療業界の場合は、
- 院内感染による集団的な被害事例や薬害などを除いて、基本的には患者一人もしくは取り違えなどでも2~3名までの被害事例となり、1つ1つの医療事故は注目されにくい規模であること
- かつ、基本的に当事者以外がいない密室で事故が発生すること、患者とその家族サイドと医療提供側に大きな専門知識の差異があること、などにより、なかなか医療側の過誤について指摘するのが難しいこと(死人に口なしというのもありますかね・・・嫌な言葉ですが)
- さらに、一度のミスが医者や病院の評判にとって大きな影響を与えること(=代わりの医者や病院がたくさん存在する)ことから、隠蔽することに対するインセンティブがあること
などが挙げられるのかなぁ・・・と思います。
つまり、医療事故が発覚すると、該当の医者もしくは病院の今後に大きなダメージが発生すると考えられていること(つまり、医療事故発覚が致命傷になると恐れられている)と、事故の規模や特性的に隠蔽しやすいことから隠蔽体質になってしまうのかな・・・と。
ともあれ、医療業界や政治家、検察などの隠蔽体質もどうしたものかと思いますが、これは利用者側というかマスコミ側というか、世の中全体的に失敗に対して極めて不寛容であるということも影響しているのかな・・・と思う時があります。
意図的な悪意を持った行為は罰せられるべきですが、意図しないミス=過失の場合の対処については、もう少し甘く見てあげても良いのかな?と(もちろん、その失敗から学べるようにするためにです)。
また、今回のコロナ禍の様な未知の出来事の場合、計画的な試行錯誤を許さないと、何が良くて何が悪かったのかが検証できないですよね。。。
まぁ、怠慢とも言えるような、行政がやるべきことをやらずに被害者を出した場合(例えば、2021年6月28日の千葉県八街市の飲酒運転による児童5名死傷事故、など)は、どう考えれば良いか悩みますが。
過去の失敗(同様の事故)から学ぶことができていれば発生を防げたとも思うのですが、この様に過去から学ぶチャンスがあったことを繰り返した場合も過失と考えるべきなのか、それは過失ではなく、故意もしくは未必の故意と扱うべきなのか、それとも、善管注意義務とか職務怠慢的な何かとして扱うべきなのか、、、どうなるのが一番世の中の進歩につながるのでしょうか。(被害者感情にも応えてあげたいけれど、一律にはいかない領域とも思えるので、せめて仕組みづくりの面からどうするのが最善なのかはアイデアが欲しいところです)
いずれにせよ、単純に「失敗=悪」ではなく、「失敗=学ぶチャンス」としていかないと、世の中の改善スピードは、旧時代の医療界の様に千年単位で進歩しないということになってしまいます。
残念ながら、この一世紀の間では、科学と経済(は微妙かもですが)は大きく進歩しましたが、政治(はある程度良くはなってるけど、まだまだ良くなれるハズ)・司法・平和(もなんだか雲行きが怪しくなってきた)については、先の2つ比べてあまり進歩してないのではないかと感じています。
そして、この書籍の日本語版が出版されたのが2016年末(12/25)で、かつ、その時点で既に22か国で出版された後だったことを考えると、これだけの年月が経ってもまだまだ失敗から学ぶことの重要性が広く理解されているとは言えない状況に、一刻も早く&多くの人が本書を読むべきとの思いを強くしました。(いや、お前も今年になって初めて読んだだろ!と言われたら、その通りなのですが・・・)
と言う訳で、身近な人に地道に本書の啓蒙に努めてみようかな、と思う今日この頃です。ぜひ、このブログを読んだ方は、本書を一読してみてください。
それでは、また。
書感:コンサルを越える 問題解決と価値創造の全技法(頭が良いだけでは足りない。これからは共感力と人間力だ!←ハードル高っ!!)
書籍『コンサルを越える 問題解決と価値創造の全技法』を読みました。
本書は、マッキンゼーでシニアパートナー、ボストンコンサルティングでシニアアドバイザーを務め、一橋大学大学院院国際企業戦略研究科教授として活躍されている名和 高司氏が記載したコンサル技法に関する書籍です。
マッキンゼーとボスコンという戦略コンサルの頂点に立つ2社で使われる問題解決の技法&思考法と、その限界および限界の越え方について書かれています。
この書籍が秀逸なのは、コンサルが使う基本的な技法を分かり易く解説しつつ、各技法の限界というか利用する上での注意点とその回避策も合わせて提示しているところでしょうか。
また、普通レベル(?)のコンサルタントが陥りがちな分析のみで終わるのではなく、実際に課題を解決し、さらに新たな価値を創造するにはどうすれば良いかも提言されているところが、単なるノウハウ本より一歩踏み込んでいると思います。(今となっては、文中でペッパー君を推しすぎているのが残念な気もしますが)
さて、大手コンサルタントを使ったことがある、もしくは、関わったことがある方の中には、彼ら/彼女らの分析や提言は確かに理屈の上では正しいのかもしれないけれど、現実的ではないと感じるケースに遭遇したことは無いでしょうか?
理想的ではある(かもしれない)けれど、実現できる気がしない、もしくは、本当に実現不可能な(誰だよこの素人が作ったプランは?!っていう)ケース。。。
私は、大手コンサル会社が描いた無謀なプランが破綻した後に、プランの修正から実行プロジェクトの立て直しに入ったことがたびたびあります・・・今もあるお客様でいくつかの大手コンサル会社が関わって実現できなかったことについて、貴社で何ができるの?と嫌味を言われつつ、とあるプロジェクトの立て直し中だったりします(泣)。
それはさておき、名和氏はマッキンゼーとボスコンの両者で活躍された方なので、両者の対比もたびたび出されるのですが、ファクトベースのマッキンゼーと心理学重視のボスコンとされて、ボスコン側のアプローチの方を推奨されています。
これは、理論的にはあっていてインパクトのある提言をするけど、提言しただけであとは頑張ってね、のマッキンゼーよりも、顧客企業に寄り添って問題や解決方法の気づきの部分からお客様自身に見つけ(と思わ)させるボスコンのアプローチの方が、実際に問題・課題を解決することができるからです。
そうなんですよね。「いくら貴社の問題は○○で、原因は△△です。その為、◇◇という戦略を実施するべき」と戦略を提言し、その◇◇が目が覚めるようなアイデアだったとしても、その提言を受けた企業が実践できなければ意味がありません。
また、往々にして、そうした斬新/大胆なアイデアは実行時に直面するこまかな現場の課題については考慮していません。仮に経営陣がやる気になったとしても、現場は混乱もしくは大きな負荷がかかって不満が蓄積・・・結果、やってる振りが蔓延し、実際の効果は全く出ず、なんてことになりがちです。
特に、問題の解決にカルチャーチェンジが必要なケースでは、一般に社員の現状維持バイアスは恐ろしいほどまでに強いですから、ほぼ100%失敗するのではないでしょうか。
そうした点で、ボスコンのアプローチは時間はかかるものの、現場も巻き込んで社員に気付かせて実行方法も考えさせる(&実行する上で直面する問題・課題の解決にも付き合う)ので、成功確率は各段に高くなります。
筆者曰く、マッキンゼーは3ヶ月で成功確率10%、ボスコンは3年で成功確率は70%となるようです。
一般に、期間がかかる=費用も嵩むので、仮に期間≒コストとした場合(長期間プロジェクトは人数も多くなりがちなので、もっとかかる可能性が高い)、12倍のコストで7倍の成功確率と考えると、必ずしも費用対効果はボスコンの方が高いとは言えないと思いますが、結果が出なければ(そこから学ばない限り)その分の支出はドブに捨てることになりますから、悩ましいですね(私なら支払い余力がある状況でこの2択の場合ならボスコンにすると思いますが、ボスコンを選択して失敗したら痛すぎる・・・)。
私は、ボスコンの方と関わったことがないので分かりませんが、一度、ご一緒してみたいものです。(元マッキンゼーの方とは一緒に仕事したことがありますが、確かに、地に足がついてなかったような??? たまたまかも知れませんし、マッキンゼーの立場での仕事ではなかったので、マッキンゼーの評価にはなりませんが)
ともあれ、本書の中身では、コンサルの基本技として、以下の事項が書かれます。
- 問題解決プロセス
- 課題設定:論点思考
- 仮説構築:仮説思考
- インパクト:インパクト思考
- 定番フレームワーク
> MECE
> ロジックツリー
> PEST分析
> SWOT分析
> 3C分析
> 5F分析
> バリューチェーン
いずれも良く知られた内容ばかりですが、単なる紹介ではなく、実践する上でのポイントや注意点が書かれているので、既に知っている方も復習のつもりで読んでみても良いかもしれません。
例えば、問題解決プロセスのところで言うと、一般に問題解決のプロセスは以下のステップを踏むとされています。
問題解決プロセス
- 問題を定義する
- 問題を構造化する
- 優先度をつける
- 分析方法を設定する
- 分析を実施する
- 発見方法を統合する
- 問題解決法を提言する
最初の2ステップは課題設定 もしくは 課題定義 のことで、言い換えると、何が本質的な問題なのかをきっちりと見極めるということです。いくら適切な問題解決方法を見つけたとしても、肝心の解決すべき問題が間違っていたら、努力の無駄となりますからね。
例として適切かは分かりませんが、病気の根本原因を叩かずに、末端に現れる症状にばかり対処していても意味がないというか、問題が再発してしまうということなのでしょう。根本原因が〇〇癌だとして、下血の対処や痛み止めだけ処方してても、普通は癌は治らず悪化するだけです。このため、課題設定は、コンサルの仕事の中でも極めて重要なポイントとなります。
で、ここで本質的な課題を見つけるためのポイント/注意点として、以下のことが書かれています(他にも書かれてますが、抜粋です)。
A. コインの裏側に解はない
B. NOT ボイル・ジ・オーシャン!
C. WHY NOT YET? を追い詰める
A. コインの裏側に解はないは、単純な問題点の裏返しは解決策にはならないということで、例として「いまの出版界と弊社の問題は返品率の高さです」、だから、「返品率を下げましょう」と言うのは、課題の指摘になっていない訳ですね。知りたいのは、売上低下や返品率向上を引き起こしている本質的な問題(とそれに対する対策)だからです。
B. NOT ボイル・ジ・オーシャン!は、本質的な問題を探るときにいきなり無数にあるファクトを集めて全部分析するようなアプローチを取ってはいけない、ということです。
無数にあるファクト=海、それを全て分析=沸騰させる、のは労力がかかりすぎて現実的ではないし仮にできたとしても効率が悪すぎる+あらゆる余計なものがいっぱい見えてしまうため、本質に迫れないということです。なので、初めにある程度分析する為の仮説を立てて、それに関連するファクトだけを集めて分析する必要があるということです(もちろん、仮説が外れることはありますが、それはそれで一つの分析結果となり、別の仮説を立てれば良いだけです)。
C. WHY NOT YET? を追い詰めるは、5 WHY?(なぜなぜ5回)をやって本質的な問題を特定したとして、その問題を取り除きましょう!と単純に考えてはいけないということです。本質的な問題と言うのは、往々にして、ある程度解決策も分かっていて○○すべきなのは百も承知だけれど、できていないから、問題となっています。なので、「WHY NOT YET? = なぜ、まだそうなっていないのか?」を解かない限り、問題解決はできないということになります。そうなっていない理由に対して、それを解決する HOW? が答えということですね。そして、なぜいまそれができていないか?というところに、その会社固有の病気が潜んでいる、と言う訳です。
これ、もう「ホントそれな!」って、膝を叩いちゃいました。大体、○○が出来ていないのは△△だから◇◇すべき、の◇◇すべきなんてのは、(割と)すぐに思いつきます。でも、それができていない原因って、たいていが、会社のルールだったり、組織風土(=部門長や所属社員の考え方・習慣)だったりして、すぐには変えられない・変わらないものなんですよね。
私が前職の時に、十分なスキルを持った社員が不足していることが営業成績の低さやその後のサービス提供時の問題発生につながっているので、体系的に人材育成をやりましょうといって、人材育成施策を立ち上げたときも、人事評価制度(スキルを上げても評価されない、習得したスキルに応じた業務を割り当てられない)や組織風土(上長がトレーニングする時間があるならサービス提供の実務をやれと言ってトレーニングを受けさせない、座学だけやっても実践では使えないから意味がないと反対する、などなど)の問題に直面して、全くうまく行きませんでした。。。
そうなるのも見越して、経営層に様々な提言や具体的な対策についても相談していましたが、力不足で十分な協力を得られなかったんですよね。根本的な問題に労力を注ぐ前に、目の前の火事を消すというか出血を止めるのが先だと。。。でも、その火事や出血を起こす原因は・・・と言っても、「お前が言ってることは分かるが、これ以上のリソースは割けない」の一点張りでした(転職してしばらくしましたが、現場を支えていた優秀な社員がどんどん辞めてるので、大丈夫かいな?と心配してます)
さて、コンサルの基本テクニックもまだまだあるのですが、本書ではそれだけではなく、超一流コンサルタントのスキルや、コンサルタントが単なる問題解決屋だけではなく、新たな価値を創造する価値創造コンサルタントになる為の提言も本書では記載されています。
超一流コンサルのスキルと書かれると私には到底手に届かない世界な気もしますが、問題を解決するだけではなく新たな価値を創造するというのは、できれば実践したいと思います。
超一流コンサルのスキルでは、大前研一氏を題材に、1.左脳(ロジカル)と右脳(クリエイティブ)を連結する力(ジョイント力)、2.異なる要素を関連付ける力(コンバージェンス力)と、3.究極からの逆算(バックキャスティング力)を挙げています。
始めの2つは、イノベーションを起こす際に必要とされる能力と言うか発想法というかで良く取り上げられる気がします。3つ目のバックキャスティング力は、ある領域において、3年後、5年後、10年後といった特定のタイミングにどうなっているかは分からなくとも、究極的にはこうなる、という状態から逆算して考える、というものです。
例として挙げられていたのは、1990年代前半(インターネットの誕生間もなくで、日本ではまだ本格的な普及が始まる前)の時に「いずれ電話はなくなる」という分析を出されたそうです。そのタイミングが2030年になるのか、2050年になるのかは別にして、いずれ確実に「電話がなくなる日」がやってくるというのを、横軸に時間、縦軸に需要を対数表示でとった直線グラフで示し、電話事業が確実に地面にぶつかるさまを見せられたそうです。
対象クライアントの幹部の間では、電話は残るとか、少なくとも今後数十年は大丈夫だ、などという議論がされていたのに対し、1枚のグラフを前に「いずれ電話はなくなって、全部データ通信に化けます」と断言されたのだとか。
・・・すごいな。今の時点ならそれを言っても当たり前と受け止められるでしょうが、インターネットが誕生して間もない頃にそれを断言するっていうのは、ちょっと神がかった未来予測の様にも感じます。
これって、三菱自動車が2009年にi-Mievを出した数年後(2012年くらいまで?)に、「いずれガソリン車は全てなくなる」って断言するようなものでしょ?
テスラが成長し、各国がガソリン車禁止を宣言した今ならそれを言ってもおかしくはないけど、非ガソリン車自体ほとんどないタイミングで言ってもまともに相手する人はほとんどいないんじゃないかって思います。また、それを説得力を持って発言するというのは非常に難しかったのではないか・・・と。(だからイーロン・マスク氏がすごい訳ですが)
もう一つ、超一流コンサルのスキルとして挙げられていたのが、JQ(Judgement Quality:(何が価値なのかを)判断できる能力)です。IQ(Inteligence Quotient:知能指数)、EQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)と並んで重要なスキルとのことで、何に価値があるのか、および、何が善で何が悪なのかの判断ができることが一流と超一流を隔てる壁になるようです。
普通のコンサルは高いIQで理詰めで(ロジカルに)やるべきことを提示する。一流のコンサルは、IQにEQが加わりクライアントをその気にさせ成果を出させる。超一流のコンサルは、JQによりクライアントにより良い価値を創出させるという訳ですね。
IQは訓練で鍛えられる。EQもある程度は訓練可能でしょう(半分は資質で半分は経験な気もするけど)。。。でも、JQって訓練するというよりも人間としての考え方の軸(=堅く言うとその人の人生哲学)が必要な領域だと思います。
筆者はポストコンサル(=単なるコンサルを越えた素晴らしいビジネスパーソン)になる為には、1. 洞察力、2. 共感力、3. 人間力 が必要としています。前の2つは、IQとEQに対応する世界かと思いますが、最後の人間力は、要素分解すると以下になるようです。
- パースペクティブ(Perspective):ものの見方、自分らしい軸があるか
- パーソナリティ(Personality):人格、人徳、EQ&JQ
- パッション(Passion):情熱、本気度がほとばしっているか
あー、なんか本当に出来るビジネスパーソンって、こうだよね。と思います。日本人は最後のパッションを表すのが苦手な人が多いような印象がありますが、でもホントに凄い人は、なんだかんだパッションもほとばしっている気がします。
あと、真ん中の人格や人徳って、狙って鍛えるのは難しそうですね。もともとの資質に大きく左右される上に、苦労した経験の積み重ねな様な気もするし、環境(人間関係)にも左右されがちでもあると思います。
でも、そっかー、これからは、優れたビジネスパーソンになりたければ、担当業務だけ出来れば良いのではなく、人間力も必要なんですね。実際に仕事をしていて、社内やお客様の協力を得るには、(相手への)共感力や(相手からの)協力を引き出す巻込力が必要だとは感じていましたが、人間力ですか・・・自信ないなぁ(ま、人からどう見られるかは、あまり気にしてないんですが)。
さてはて、本書の最後には、社会起業家の話やCSV(Creating Shared Value)、SDGsが取り上げられています。今のところ、自分自身が社会起業家になることはあまり想像できませんが、大事な視点だとは思います。所属企業内でもSDGsやCSRの啓蒙が行われていますし、自宅でもできる範囲でSDGsを意識した生活習慣を心掛けていますしね(大したことはやってないけど)。
ともあれ、本書は表面的にテクニックを紹介するだけではなく、筆者自身の長年の経験に裏打ちされたポイントがたくさん詰め込まれているので、コンサルタントだけではなく、何かしら組織の改革に携わるような方は是非読んでみてはいかがでしょうか?
きっと参考になると思いますよ。
ではでは。
書感:コンサル一年目が学ぶこと(基礎的なことだけど、だいたいどれも大事ですね)
書籍『コンサル一年目が学ぶこと』を読みました。
本書は、職業・業界を問わずに役立つ普遍的なビジネススキルを解説した書籍です。
タイトルに「コンサル一年目が」と記載されていうので、対象者を限定しているかのように見えますが、実際には
・職業を問わず、業界を問わず、15年後にも役立つ普遍的なスキルを
・社会人一年目で学んだときの基礎的なレベルから
理解できるようにするのがコンセプトです。
普遍的なスキルを基礎から学べるのはいいね、と思って手に取ってみました。
まぁ、社会人一年目どころかうん十うん年目なので、今更かも知れませんが。
さて、本書で紹介・説明されるスキルは、大きく以下の4カテゴリに分かれていて、1カテゴリ1章構成となっています。
- 話す技術
- 思考術
- デスクワーク術
- ビジネスマインド
うーん。。2の思考術の一部は社会人になって10年目くらいに会社提供の研修で学んだけど、それ以外は、誰かに教えられたり、研修を受けた記憶がないなぁ・・・
コンサル業界は、初年度からこんなトレーニングを受けるのですね(実際には、実務を通じて先輩に指導されたスキルも含まれる様ですが)。
体当たり実務経験のみの独学人生の私とは大違いだな。
若いころからキチンとこうしたトレーニングを積んで(&指導を受けて)いたら、もう少し違ったキャリアになったのかな?と思う反面、遠回りばかりしてきたけど、その分色んなダメシチュエーションを知っているのが今のキャリアにつながってる(優秀な同僚たちとは異なった側面で強みを発揮できてる)ので、あながち無駄だったとも言えないんですよね。
どんなことからでも学んで次に活かす気があればダメな経験でも活かせるし、その気がなければどんなに体系的に良い知識を学んでも役に立たないので、学んだことを活かせるように努力することが大事ですね。
また、もういい年齢ではありますが、基礎から学びなおすのも必要かな、なんて思っています。出来てるつもりで出来ていないことも多いですし、昔習ったことや独学や経験的に身につけてきたことが、今は通用しないなんてこともありますからね。。
あ、でも今回の書籍は、15年後にも使える普遍的なスキルとあるので、できてないとダメなやつばかりですね(社会人になって15年以上たってるから出来てなくても仕方ない??)。
さて、それでは、少し中身に触れたいと思います。
まずは1つ目の話す技術です。
ここでは、以下の9個のスキルが挙げられています。4うのカテゴリの中では最多です。
01. 結論から話す
02. 端的&率直に話す
03. 数字というファクトで語る
04. 数字とロジックで語る
05. 感情より論理を優先させる
06. 相手に理解して貰えるように話す
07. 相手のフォーマットに合わせる
08. 相手の期待値を把握する
09. 上司の期待値を超える
それぞれどういう意味か、なぜそれが大事なのか、実践する上でのコツというかTips的な事項、が書かれています。
こうして見ると、前回書いた雑談力とは真逆の方向ですね。これを雑談時にやったら超絶うざいヤツになりそう。。。
ビジネススキルとしては、こうした話し方は重要ですが。
06. の「相手に理解して貰えるように話す」は、中身を見ると、相手の理解度を推し量りながら話す、前提事項を相手の方が知らないと仮定してそれでも分かる様に話す(準備をしておく)という内容なので、単に話し方というのではなく、話す上にあたっての心構えと準備のところが重要なスキルです。
これ、すごく重要なんですよね。
私はよく色んな会議でファシリテーションする&議論が噛みあわない場合の仲介役になるのですが、議論がうまく行かない場合って、たいていそれぞれが話している対象が異なっていたり、前提としている背景が異なっていたりするんですよね。
なので、「こういう意図で話されてますか?」 とか、「もしかして、こういう前提だったりしますか?」、「こーゆーことを気にしているんだよね?」などと質問したり確認したりして、相互にずれている個所の明確化を図る様にしています。
場合によっては、「彼が言った○○というのは、これこれこーゆーもので、どのように役立つんです」などと、相手側が分かっていなさそうなことを補足したりもします。
また、自分が分からないことをお客様が話した場合は、「すみません。勉強不足で申し訳ないのですが、XXXってどういう意味(モノ)でしょうか?」と、素直に聞くようにしています。
と、さも出来ているかのように書いていますが、実際には、自分自身が噛み合わないを発生させている場合もあるので、気を付けなといけないですね。。
あと、08と09の「期待値の把握と超える」は、意識していても実践するのは難しいんですよね。
職場では、「期待値コントロールが大事」と言われるのですが、お客様がハッキリと期待値を言ってくれることは少ないですし、非常に高い期待値を持っていただいた場合に、それを上手に(ガッカリさせずに)下げる方法が思い当たりません。。
最初から期待値が上がりすぎない様にしろって言われるんですが、そうすると受注ができない・・・とか、私も人間なので、相手に良く思われたいという気持ちも働いたりして、期待値を引き上げるような話をしちゃいがちです。反省しないとですね。
あ、ただここでの内容は、相手が期待している内容を正確に把握して、一番重要なことを絶対に外さないことがMustで、その上で+αを出すようにしましょう、というモノです。
例えば、速度が重要で質はそこそこで良いのか、質は絶対で時間を掛けても良いものなのかを把握せずに、速度重視の時にゆっくり丁寧に資料を作っても評価されないってことですね。新人にありがちな、完璧な資料を作ろうとして(でも、新人だからそんなものハナから無理)、上司にいつまでやってんだ?って叱られるパターンですね。
それなりに年数を重ねても、ぜんぜん期日を守れない人がいますが、そんな人は評価されませんからね。。。
ITだとS/In期日を守れないパターンとか。。。(これは良くありますが)
さてはて、次は2つ目の思考術です。
ここでは、以下の6個のスキルが挙げられています。
10. 『考え方』を考える
11. ロジックツリーを使いこなす
12. 雲雨傘提案の基本
13. 仮説思考
14. 常に自分の意見をもって情報にあたる
15. 本質を追求する思考
12の「雲雨傘」は知らない人からしたらなんだこれ?ですが、以下のように、事実と解釈とアクションをちゃんと区別するということです。
(事実)「空を見てみると、雲が出ている」
(解釈)「曇っているから、雨が降りそうだ」
(アクション)「雨が降りそうだから、傘をもっていく」
コンサル初心者(もしくはエセコンサル)だと、事実と解釈がごっちゃになっていたり、解釈を受けてのアクションまたは提言がなかったりするので、ちゃんと物事を分析する時は、この3つを分けて&漏れなく提示しましょうと言うモノです。
これまでの経験上、これがちゃんと出来ていないビジネスパーソンは結構多いです。
特に、事実と解釈が分離されてないのと、アクションがない報告書は山ほど見てきましたね・・・本書にも書かれてますが、だから何?(So what?)と言いたくなるヤツです。
あと、仕事を進めるのが上手じゃない人は、10の「『考え方』を考える」も苦手なみたいです。
言い換えると、仕事の進め方を考えて設計するということなのですが、作業に入る前に、どの様に進めたら求めている答え(=結論 or成果)に行き着くことができるかという「アプローチ」/「考え方」/「段取り」を最初に考える、ということになります。
具体例がないと分かりづらいと思うので、詳細は本書を読んでみていただきたいのですが、この仕事の進め方を考えるのが苦手な人って、結構いるなぁ、と感じています。
大きな仕事・作業の場合、大まかに作業を分割して、次に着手する作業だけ細分化するなどをすると思うのですが、いきなり思いついた(?)作業にいきなり取り掛かる人っているのですよね。
犬小屋を作ってといったら、いきなり木材を切り始めるような感じで。
最初に出来上がりイメージを作り、そこから設計図を書き、必要な材料を買い集めて、それから切ったり、釘を打ったりの加工作業だろうが!と思うのですが、とにかく作る&加工作業に入っちゃう・・・材料集まってないじゃん。
ともあれ、物事をスムーズに進めたり、狙った成果を出すために必要な思考方法がこの章に書かれています。
続いて、3つ目のデスクワーク術は、以下の7個のスキルが書かれています。
16. 文書作成の基本、議事録書きをマスターする
17. 最強パワポ資料作成術
18. エクセル、パワーポイントは、作成スピードが勝負
19. 最終成果物から逆算して、作業プランをつくる
20. コンサル流検索式読書術
21. 仕事の速さを2倍速3倍速にする重点思考
22. プロジェクト管理ツール、課題管理表
正直、ここは他の章よりも重要度が低いと思います。
ただまぁ、ここに書いてあるなかで強いて重要なのを挙げるとしたら、21の「重点思考」でしょうか。
タイトルからは何のことやらなんですが、余計なことをやらずに大事なことにフォーカスするということが書かれています。
「20対80の法則(パレートの法則)」とも書かれていますが、重要な20の部分にフォーカスして作業をしましょう。残りの80は切り捨てましょうってところです。
まぁ、本当にその80を切り捨てると重要な見落としがあったりするので、個人的には、まず全体を俯瞰して重要な20を見つける(選ぶ)。そして、最初はその20に注力する。
その20がある程度出来てきたら、残りの80の中で抑えるべきものがないか確認して、拾った方が良いものがあれば、それを取り込み、最初の20の仕上げをする。と言う感じで進めることが多いです。
最初から100を全部均等に完璧に仕上げようとすると終わらないので、19の「逆算して作業プランを作る」のと合わせて、21を実施するような感じですね。
あと、16の「議事録」や22の「課題管理表」は、それほど重要度が高いとも思いませんが、ベテランでも議事録にToDoや決定事項が書いてなかったり、課題管理が追こなれていなかったりすることもあるので、出来ていないと痛いスキルではありますね。。。
それはさておき、最後(4つ目)は、ビジネスマインドです。こちらは、以下の8個が挙げられています。
23. ヴァリューを出す
24. 喋らないなら会議に出るな
25. 「時間はお金」と認識する
26. スピードと質を両立する
27. コミットメント力を学ぶ
28. 師匠を見つける
29. フォロワーシップを発揮する
30. プロフェッショナルのチームワーク
この章の内容は、どれも非常に大事だと思います。
ただ、28の「師匠を見つける」のだけは、出来てなかったですね。誰か特定の一人って意味では。
若い頃は紆余曲折あって、周りに師匠としたい人がいなかったので、どちらかというと反面教師として、周囲の人たちのほとんどを逆師匠にしていた感覚があります。
いまは、縁あって周りに優秀な方が多いので、それぞれの方の良いところを真似しようと背伸びしているところです。特定の人を師匠と思ってはいませんが。
あと、こう書くとなんか上から目線になってしまうのですが、いわゆるローパフォーマーな人って、23~25を全然意識してないですよね。
自分の作業がどの様な付加価値を出すのか?なんて考えていないし、会議でも促されない限り絶対発言しないし、自分の時間だけではなく相手の時間を浪費させても全然気にしない・・・うーん。。。
あと、ローパフォーマーな人に決定的なのは、コミットメント力がありません。まず何かを絶対に達成します的なコミットメントをしたがらないですし、期限付きで作業を任されたり成果を求められても、何がなんでも達成する意識と言うか気迫というかが無いですよね。
まぁ、いまどき、下手にコミットを求めるとブラック扱いされかねないので、難しいところですが。
それでも、お客様と約束したことは守ろうよ・・・と思うのですけど。平気で期日を破ったり、質の低いものを出したりしてるのを見ると、ガッカリします。
さてはて、なんだか全体に触れたら長くなってしまいましたが、本書はビジネススキルの基礎本としては非常によく纏まっている書籍だなぁと思います。
実際には、一読しただけではすぐに出来ない内容も多いように感じますが、意識することで徐々に改善されることもありますし、実務を通じて鍛えることもできると思うので、一年生社員だけではなく、私のような中年社員も読む価値があるんじゃないかと思いました。
という訳で興味を持たれた方がいたら、ぜひ読んでみてください。
ではでは。
書感:超雑談力(中身なんてなくて良い、でも会話を続けるためのテクニックは必要なのよね)
書籍『人づきあいがラクになる 誰とでも信頼関係が築ける - 超雑談力』を読みました。
本書は、
「雑談」って、難しくないですか?
から始まる雑談のHow to本です。
続いて、
・何を話せばいいかわからない
・沈黙が気まずい
・とにかく話が弾まない、続かない
・初対面の人だと特に緊張する仮にうまく話せたとしても、
・薄っぺらい会話ばかりで疲れる
・いつ終わりにしていいかわからない
・気を使うので疲れる
・結局、その場限りの関係で終わるなんてことになりがちですよね?
と続きます。分かります。私も「雑談」、超苦手です。
あ、ちなみに、ここでの「雑談」の相手は以下のようなお相手です。
・初対面の人に、ぎこちなく自己紹介
・1回か2回会っただけの人と、適当に話を合わせなきゃいけない
・上司や取引先の偉い人に、下手なことを話せない
・義理の両親・親戚に、「ははは」と愛想笑いを続ける
・ママ友・パパ友から、どうでもいい話を延々聞かされる・・・・・・ああ、想像するだけで地獄です。
微妙な関係の人と、なんとなく話さなくちゃいけない状況。これこそがまさに多くの人が苦手な「雑談」です。
『・・・・・・ああ、想像するだけで地獄です。』(笑)
この一文を読んだ瞬間、あまりに分かり味が深すぎて思わずうんうんと頷いてしまいました。
ともあれ、関係が深くない人との「雑談」って、なんか上手くできなくてもどかしい(苦痛な)んですよね。
そもそも仕事しかしてないワーカホリックには雑談するようなネタなんかないし、ガチ技術屋なんでお相手の話にうまく乗って楽しく会話を続けるということがどうにもうまくできないのです。会議の冒頭のアイスブレークくらいなら何とかなってる気がしてるんだけど・・・自分で思っているだけかな(悲)。
ともあれ、本書では、「雑談」を上手に行うやり方について、始めに基本的なルールを挙げた後に、シチュエーション&テーマ別に説明しています。
何に気をつけるべきかのポイント、ダメな例、良い例を具体的にあげて解説しているので、とても分かり易いです。
シチュエーションは、大きく以下に分かれていて、それぞれのシチュエーションごとに10個程度の具体的なテーマを説明しています。
・初対面編
・知人/飲み会編
・職場/ビジネス編
どれも、私が苦手とするシチュエーションなので、とても参考になります。
各シチュエーション内では、個々のテーマについて、先にも書いた通り、具体例を交えながら、何がダメなのか、何が良いのか、どう実践すれば良いのかの解説が付いているので、雑談下手な私でも何とか実践できそうな気になります。(そして、自分が如何にダメな例をやらかしてたのかに気づき、穴を掘って埋まりたい気持ちになりましたが・・・)
例えば、「応えやすい質問2」というテーマでは、
× :「なぜ(WHY)」と理由を尋ねる
〇:「どう(HOW)」と状況や気持ちを尋ねる
と、NG行為とOK行為が整理されています。
例として「電車で寝過ごした際の会話」が挙げられているのですが、そこで「なぜ?」と聞かれても困りますよね。
「飲みすぎて」とか、「疲れてて」とか、大した理由なんてないんですから。下手をすれば、詰問もしくは非難されている様に感じて、話が続きません。
それよりも、「どこまで寝過ごしたのか?」とか、「途中、一度も目が覚めなかったのか?」、(終電だった場合とかなら)「その後どうしたのか?」とかを聞いた方がよほど話が続きます。
この様に、例を交えての解説なので、非常に分かり易いです。(実際にはもっと丁寧に解説されています)
まぁ、分かるのと実践できるのとは違うので、私自身が類似のシチュエーションに遭遇した際に、うまく質問できるかは分かりませんが、少なくとも「なぜ?」を聞く愚行は避けれるとは思います。それだけでも、いままで地雷を踏み抜いてきたのと比べれば、即死しなくて済むだけ大進歩です(次元が低くてごめんなさい)。
ともあれ、「雑談」の目的は「人間関係の構築」にあるのであり、「会話を通じて、お互いの警戒心を解き、スムーズで円滑な関係にシフトすること」なので、「話の内容は、はっきり言ってどうでもよい」、「無理におもしろい話をする必要はありませんし、ましてや『結論』や『オチ』なんて不要です。むしろ、あってはいけないもの。」と言い切られている点に救われ(?)ます。
いやー、なんだか「雑談」の場で何とか面白い話や楽しい話をして場を盛り上げなきゃと緊張してしまうタイプなので、中身のない話をするのに抵抗感があったのですが、それはむしろ逆効果というか、やってはダメなことなんだと知って、今後は緊張しなくて良いんだ、と肩の荷が下りた気がします。
また、「雑談は会話のラリー。とにかく続けば良い」と書かれていて、なるほど!と思いました。
でも、そのとにかく続けるのが難しいんだよなー・・・とも思うのですが、本書では、シチュエーション×テーマとして、様々なテクニック(基本ルール7つ+36種類のテーマ)が書かれているので、これらをちゃんとマスターしたら、確かに雑談の達人になれちゃうかも、と思いました。
まぁ、まだ実践してないのでどうなることかは分かりませんが、まじめに読み返して、少しでもぎこちない「雑談」を減らしたいと思いましたです。
ということで、もし「雑談」は苦手なんだよなー、と言う方がいらしたら、一読する価値はある本だと思います。
もちろん、類似の書籍は山ほどあるので、この本でなければいけないということはありませんが、とても読みやすく、ポイントが整理された本なので、個人的にはお勧めできると思います。
それでは、また。
書感:BRAIN DRIVEN(一朝一夕にはできないけど、試す価値はあると思います)
書籍『BRAIN DRIVEN[ブレインドリブン] - パフォーマンスが高まる脳の状態とは』を読みました。
本書は、応用神経科学をベースとしてモチベーション、ストレス、クリエイティブティの3テーマについて書かれた書籍です。
神経科学とは、比較的新しい学問で、脳を含む神経系を、細胞や分子の機構から紐解く学問だそうで、その知見を人間の理解や実際の生活にどう応用するかを探求するのが応用神経科学とのことです。
うーん。。面白そうだけど、難しそうだな・・・
初めのテーマはモチベーションなのですが、脳や神経の状態がどの様な状態になったらモチベーションが上がったと言えるのか、また、下がったと言えるのか、これを神経科学的に「脳のどの部位が活性化した」とか、「どこそこのドーパミンが増えた」などと分析していくことだけで解明できるのかというと、そうではないと筆者は言います。
『生命は系(システム)として成り立っているので、人間の脳の中にあるモチベーションに関する部分だけを見て解明できるわけではない。システムの中心となる部分に加え、それが相互作用し合うシステム全体を見ないか限り、モチベーションを語ることはできないはずだ。』と。
こう読むとそりゃそうだ・・・と思うのですが、日々、神経科学や応用神経科学を研究されている方たちは、こうしたことを分かった上で、実際にモチベーションが上がるときに脳内で何がどの様な順番で起きているのか、そのメカニズムはどうなっているのか、また、その後にモチベーションが下がるときには何が起きているのか?を、繰り返し繰り返し実験と観測を繰り返して分析してるんだろうな・・・しかも、本当にモチベーションが上がったのか、下がったのかを証明するのって、心(頭?)の中の出来事だけに、客観的に証明できるように論拠するのって非常に難しい気がします。
それはさておき、本書では、基本的なスタンスとして、神経科学の観点から「脳の中で何が起こっているのか(What)」と「なぜそうなるのか(Why)」の説明にフォーカスしていて、具体的にどうやってモチベーションを上げたり、ストレスに対処したり、クリエイティビティを高めたりするかの How については説明していません(ヒントと言う名の軽い How to はあります)。
まぁ、個々人の置かれた状況や、資質や性格も異なるのに、一律のHowが使えるかと言うとそれは難しいだろうし、多くのHowを列記するとどれが自分に合うか選ぶのが大変だし、あまり価値はないのかもしれません。
また、筆者は、神経科学の観点から言えば、ハウツーは与えられるのではなく、自分で創るものだと言います。これは、脳の大部分は、生まれ持って作られた機能よりも、生まれた後の経験や記憶によって発達(もしくは退化)したネットワークによって構成される為で、自分自身の経験に合わせたHowを開発しない限り、他の人(の脳)に合わせて作られたHowを使っても、前提となる経験や脳内構造が異なるので、上手く行くとは限らないからです(たまたま上手く行くこともあるでしょうけど)。
ともあれ、本書のテーマは、モチベーション、ストレス、クリエイティビティなのですが、これら3つに共通する大事な概念に「メタ認知」というのがあるので、そちらを先に書いて置きます。
「メタ認知」とは、自分を客観的・俯瞰的に捉えることですが、なぜこれが大事かと言うと、例えばモチベーションをコントロールできるようになりたいと思ったとしても、自分自身が何に対して、もしくは、どんなシチュエーションに対してモチベーションを感じたり、下がったりするかを認識していないと、意識してコントロールすることはできないからです。同様に、ストレスコントロールやクリエイティビティの向上についても、メタ認知が重要になります。
ところが、このメタ認知は、かなり意識しないと出来ません。これは記憶のメカニズムに基づくのですが、例えば、最寄駅から自宅までの電柱の数が何本か聞かれて応えられる人はほとんどいないのではないでしょうか? 毎日同じ経路で、通勤・通学される方でしたら、全ての電柱は視界に入っているかと思いますが、意識して数えない限りその数を記憶することはありません。数値ではなくどこに電柱があるかだとしても曖昧にしか記憶していないと思います。
同様に、自分自身のことについても、意識して観察しなければ、記憶はされていません。特に、自分自身のことは、良く分かっていると錯覚しているため、ほとんどの人は意識的に自分を見ようとはしないそうです。(確かに、自分の体にあるホクロの数を言えと言われても分からんしな・・・顔にあるホクロですら何個かは言えない。ましてや背中とか見ようとしたことすら無い)
筆者曰く、『メタ認知の本質的な意義は、自分のことを客観的に、俯瞰的に見ることで、自分自身の脳に自分自身についての情報を書き込み、それによって「自分をもつ」ことなのである。自分の感じ方、考え方、ふるまい方を知れば、自分で感じ、考え、行動する、自律的な脳がはぐくまれるのである』だそうです。
書き方は難しいですが、自分を理解しなければ、コントロールなんてできないということでしょう。
モチベーションの向上、ストレスへの対処、クリエイティビティの向上のいずれにしても、このメタ認知をしていなければ、意識的に改善することは難しいので、理解&意識しておきたいところです。
では、そろそろモチベーションの高落のWhat/Whyについて入っていきたいと思います。
筆者は、そもそも「モチベーションとは?」ということで、以下の辞書の引用をしているのですが、神経科学的には、動機を与えることと、動因(動機の原因?)は別物なので、カオスな定義だと言っています。
1.動機を与えること。動機づけ。
2.物事を行うにあたっての、意欲・やる気。または、動因・刺激。(デジタル大辞泉:小学館)
例えば、ある人が「お金をあげるから〇〇を買ってきて」と頼まれて、実際に買い物に行ってきたとします。
お金はモチベーションかというと、お金が要らない人にしてみたら、それはモチベーションになりません。もちろん、お金をもらって〇〇を買ってきたのだけれど、その人の実際の動機は、相手に「感謝されたい」かも知れないし、「暇つぶし」をしたかっただけかもしれません。単に親切な人で、「誰かのために行動すること自体が嬉しい」という場合もあると思います。
なので、モチベーションを神経科学的に考える場合、
1.原因となる何らかの「刺激」があり
2.それを受けて関連する体内の環境が「変化」を催すことによって
3.「行動」に移る
という流れに分解されるそうです。
上記の内、1の刺激は「モチベータ」と呼びます。これは、外部からの刺激の場合もあれば、自分の頭の中の想像などの内部的な刺激の場合もあります。
そして、ある特定の脳部位にモチベータが届けられたときにおこる神経細胞の反応や、それに伴って放出される化学物質を総称して「モチベーション・メディエータ(仲介者)」と呼びます。
最後に、このモチベーション・メディエータによる反応を意識下に感じた状態、すなわち認知した状態(=何らかの行動を起こそうと意欲を持った状態)が「モチベーション」なのだそうです。
書き直すと、こうなります。
モチベータ = 行動を誘引する視点となる間接的な原因
モチベーション・メディエータ = 行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態
モチベーション = 行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態
モチベーション・メディエータとモチベーションの違いは、やる気になっている状態と、やる気になっている自分を認知した状態の違いである。前者の行動を誘引する脳機能と、その状態を認知する後者の脳機能は別とのことです。
外的/内的刺激によりモチベーション・メディエータ状態には自動的になりますが、モチベーション状態には、自分で認知しないとなりません。
そもそも他人と自分のモチベーションのあり方は、DNAレベルで異なり、体験による記憶が異なり、脳の配線が異なる限り、大きく異なる可能性が高い。
自分のモチベーションが高まると言って、同じ要因によって他人も高まるとは限らない。その違いを受け入れて尊重し合うこと、モチベーションの多様性を受け入れることが、チームや組織としてのモチベーションを全体として高めるスタートラインとなるでしょうと、指摘しています。
続いて、筆者は、マズローの欲求段階説とは別に、脳の構造(中心部=本能的な部位→周辺部=人類が発達させてきた高度な脳機能領域)に従った欲求の段階として、神経科学的欲求五段階説を提示しています。
<後天学習型:無意識的に選択されにくい>
5.大脳新皮質:高次機能系(記憶処理系)
4.大脳辺縁系:学習系(記憶定着系)
-------------------------------------------------------------------------------
<先天DNA型:無意識的に選択されたい>
3.間脳:自律神経系(ホルモン系)
2.大脳基底核・中脳:快・欲=食欲/満腹、覚醒/睡眠
1.延髄:呼吸/体温/心拍/血圧
下の方に行くほど、生物が生きるために必要な機能となっており、それらに対するモチベーションが優先されやすい。
後天学習型の方は、脳内のネットワーク(シナプスのつながり)を変える必要がある為、多くのエネルギーが必要なこともあり、繰り返し学習させ、意識してあげないと脳内ネットワークが作られ・強固に結びつかないのだそうです。
脳と言うのは、「Use it or Lose it(使われれば結びつき、使わなければ失う)」仕組みなので、上記の4と5にあたる領域のことは、繰り返し意識して覚えさせないと、モチベーションが上がる状況も覚えないのでしょう。
また、脳内では、やる気の上がる下がるについては、以下の2つの成分の分泌量の多寡が影響しています。以下の2つがバランスよく分泌されることで、モチベーションが上がった状態になるそうです。
・ドーパミン:SEEK(探し求める)→βエンドルフィン(脳内アヘン)
・ノルアドレナリン:Fight or Flight(闘争または逃走)→コルチゾール(ストレスホルモン)
モチベーションのタイプやキッカケ、脳内で何が起きているかの仕組みなどについて整理して、こうした脳内の仕組みを上手く活用して、どうやってモチベーションを上げやすくするかについて、ヒントを記載しています。
ストレスについても、同様で間接的な原因と直接的な原因に分けられ、モチベーションと同じように、
ストレッサー
ストレス・メディエーター
ストレス
に分けられるそうです。ストレスのキッカケとなるストレッサーには、外的なものと内的なものの両方があるのも同様です。
また、ストレスも、ストレスを受けている状態(ストレス・メディエーター)と、それを認識している状態(ストレス)に分かれるところも同じですね。ストレス・メディエーター状態になっているのに、ストレスとして自覚していない状態の人は鬱病になりやすいそうです。
違うのは、ストレスは、適切なストレスであれば、逆にパフォーマンスを向上させる効果があるということで、良い方にも悪い方にも作用するということでしょうか。
モチベーションは、パフォーマンスの高低に影響しますが、ストレスは対処を誤ると鬱病などの病気につながるだけに、より適切な対処が必要ですよね。。
特に内的要因=気持ちや考えに起因するストレスの場合は注意が必要なのですが、人間は何か良いことや嫌なことを思い出したときに、感情的な記憶も呼び起こされ、それは強烈な記憶として刻まれます。そうすると、強く記憶に刻まれた結果として、その嫌なことを思い出しやすくなるため、そのたびに不愉快な感情が発露し、負のループとなって加速的に精神状態を悪化させてしまう可能性があります。
その為、そうした負の感情が起きたときには、負のループに陥らない様に、おいしいコーヒーを飲む、好きな音楽を聞く、お笑い番組を見る、など、自分にとって楽しい気持ちを引きおこすルーティーン=ストレスの解消法があると良いでしょう(仕事中だとできることは限られそうですが・・・)。
ともあれ、良いストレスも悪いストレスも、どの様なメカニズムで発生するのかと、それをどうしたら軽減したり、上手に使いこなせるのかについて、多くのヒントが書かれています。
その前提として、ストレスを感じていることに気づくことが重要なので、自分の中で何かがおかしいという変化を感じ取ることと、自分にとってのストレッサーが何であるかを棚卸して把握しておくことが大事かと思います。認識していないまま強いストレスを受けると、うまく対処できずに自分の感情や行動を制御できないといった事態にもつながるので、注意しましょう。
大事なヒントとしては、他人に対しても自分に対しても、高すぎる予測値や期待値を持たないことがコツになります。高い期待を持つこと自体は悪いことではないのですが、それと現実に大きなギャップがあるとストレスになるので、予測値や期待値を柔軟にコントロールすることも、ストレスと上手に付き合うための大事なポイントになります。
最後にクリエイティビティについてですが、この書籍を読んで「そうなのか!」思ったのが、クリエイティビティというと多くの人は先天的な才能だと思っていますが、実際には、クリエイティビティに必要な脳の機能面で言うと、ほぼ全て後天的な要素になるそうです。
「クリエイティビティとは何か?」という定義も難しいのですが、本書では、「新しく、価値ある情報(刺激)を発揮する能力」としています。つまり、「新しい価値がある何か」を創造する能力がクリエイティビティと言うことになります。そして、新しい価値がある何かを生み出すには、新しくて価値がある何かを「創造するプロセス」と、それが実際に新しいか? 価値があるか?を「評価するプロセス」の両方が必要となります。ちなみに、両者は、全く異なる脳を使うそうです(そういえば、批評ばかり得意な人っていますよね・・・)。
ともあれ、こうした創造プロセスは、経験を積まないと上手にならないものですが、やっかいなのは、自分自身にとって新しいことと他人にとって新しいことは全く別の話であるということです。
新しいものを生み出すことは大変なので、その結果として良い評価を貰うような報酬がないと続きません。しかも、繰り返し経験しないと上手になっていきませんが、ある人が自分にとって新しい何かを創造したとしても、経験豊富な人や多種多様な人に対しても新しくて価値がある可能性は低いので、他人から評価される可能性はあまり高くないと思います(特に日本だと否定&批判文化なので、その傾向は顕著だと思います)。
つまり、クリエイティビティ能力は後天的な能力であるがゆえに、最初はうまくできない可能性が高い。よって、他者から評価される可能性も低い。
その為、一部の最初からある程度上手にできる人以外は、上手にできるようになるまで繰り返し練習したり能力を伸ばす努力を継続できないことが多い。その結果、最初からある程度上手にできる人以外は、なかなか努力を継続できずにクリエイティビティを習得できない為、クリエイティビティは先天的な能力と見做されがちであるということでしょう。
(一方で、批評する機会は山ほどある上に批評が下手でも非難されることは少ないので、批評するのは得意なのかもしれません・・・うーん。。。その辺は、ほめ上手な非アジア圏の方がクリエイティビティが高くなりやすいのかな??)
では、どうしたら創造プロセスを上手くできる様になるかについては、脳の働きを通じてどの様な時に新しいアイデアを創造しやすいかを説明しています。(内容は、「アイデアのつくり方[ジェームス・ウェブ・ヤング]」と大して変わりませんでしたが、そのプロセスを通じて、脳内で何が起きているかを説明しているのが特徴的でした)
ともあれ、本書全体を通して、自分が何にモチベーションやストレスを感じるのかを把握して、それを意図的に起動できるようにすることで、モチベーション&ストレスのコントロールをするというのは、取り組む価値があると感じました。
一部は既に実施していたことだなぁ、とも思いますが、あまり意識的にやっていたわけではないので、今後は意識してモチベーターやストレッサーを棚卸して活用して見ようかと思います。
また、クリエイティビティのところは、自分自身の実体験で感じていたことと重なることが多かったので、納得感は高かったです。ただ、自分が理解していなかった脳内の働きを知れたところもあるので、今後はそれを上手く活用できるかどうかですね。。。。
正直に言って、本書で書かれていることのHowのヒントにつながることの多くは、他の書籍に書かれていることと変わりません。
それを神経科学の知識をベースに書く必要がどのくらいあったのかについては、やや疑問があります。この書感ではほとんど出しませんでしたが、脳の各部位の名称や脳内物質の名前が頻出して読みづらくて、なかなか頭に入ってこなかったです。。
もし、本書を読む方が居たら、最初の方に脳内の名称を記載した図や、各部位の説明が注釈にありますので、それを見やすいように準備をしておくことを推奨します。一発で各部位の名称と役割を覚えられる方以外は、そうしないと非常に読みづらいだろうと思いますので。
ともあれ、モチベーションやストレスのコントロールに課題を感じている方、もしくは、自身のクリエイティビティを伸ばしたいと考えている方は、一読して見ても良いと思います。
あと、どうでも良いかもしれませんが、個人的には、本書のイラストは味があって好きです。
ではでは。