書感:日本人の勝算(とても納得!)

デービッド・アトキンソン氏の書籍「日本人の勝算」を読みました。 

 日本経済が長期に渡り低迷している原因と対応策がロジカルに書かれていて、納得感が高い書籍です。

 

端的に言えば、原因は「日本が生産性向上に十分な努力してこなかったこと、これから人口が急速に減少していくことを考えると、生産性を他の先進国以上に引き上げていかないと国が衰退する」というものです。

人口が増加する国、かつ、平均年齢が若い国であれば、放っておいても経済成長は達成できるが、急速な人口減少と高齢化を同時に迎える日本では、よほど生産性を向上させない限り経済縮退は免れえない。また、世界に類を見ない超高齢化社会を迎える日本では、経済が縮退すれば、増加する一方の社会保障費を賄うことと全世界で断トツ一位の国の借金の返済ができず、国が破綻するとも警告しています。

しかし、日本の労働者の質は世界第4位と、先進国トップレベルの優れた労働者が揃っている国であり、技術力も高く、インフラも整備されている国なので、必要とされる生産性の向上は十分達成可能であるとも主張しています。

日本の生産性が低い最大の理由は、規模が小さい企業が多すぎることであると、数々の論文を引いて説明しています。そして、その対策として、多くの中小企業の統廃合を通じて規模を大きくし、生産性を向上させられない経営者を退場させる必要があること、それを強制させる手段として、継続的な(でも、急激すぎない)最低賃金の引上げが効果的であることを、諸外国の例を挙げて提示しています。

それ以外にも、低価格競争から高付加価値競争への転換、輸出の拡大、(若者の教育の改善ではなく)生涯教育の必要性など、日本経済が沈没するのを回避するための処方箋が示されています。

どれも論理的で分かりやすい内容でありましたし、私個人の周りにいた生産性の低い勉強しようとしない中高年社員や、生産性向上のための施策や改善活動を本気でやらない経営陣(&会社の業績低迷)を考えると、納得せざるを得ませんでした。

 

ただ、この書籍の主張の大前提となる生産性の定義が記載されていないため、初めの内は記載されている内容にいまいちピンときませんでした。この書籍における生産性は、1.労働生産性、2.資本生産性、3.全要素生産性(1と2以外による生産性≒業務プロセスやルールなどの会社の仕組み)の3つを合わせたものとなるようです。

また、初めのうちは、私の頭の中で、経済成長と生産性の向上もごっちゃになっていて、それが理解の妨げにもなっていました。経済成長の中身は、a.労働の投入量(労働人口×労働時間=総労働時間)、b.資本の蓄積(ここでの資本は、労働者一人に与えられる資本≒道具や機械などの設備)、c.全要素生産性(ここでは前記の1~3全部のこと)に分けられるのですが、これが書かれているのが本書の終盤なので、しっかり理解できるのに時間がかかってしまいました。

 

あと、この書籍を読んで、目からウロコと言うか、ちゃんと認識をしていなかったこととして、日本が世界第3位のGDP総額を維持しているのは、日本が先進国第2位の人口大国(約1.3億人)だからというものです(第1位はアメリカで3.2憶人、第3位はドイツで8,200万人)。

アジアには、中国やインドなどの人口超大国があり、他にもインドネシアなど人口が多い国がある為、日本が人口大国であるという認識が欠如していました。

 

ともあれ、日本の経営者の無能っぷりや企業規模と生産性の関係、多くの勉強をしない社会人への(職種転換を含む職業再)教育の必要性など、日本が低迷している原因と対策を明快に記載している本書は、読むに値する一書だと思います。

もし興味を持たれたら、ぜひ一読することをお勧めします。