書感:最難関校ミネルバ大学式思考習慣(何を知らないかを知るためのツールですね&本を書くのは大変ですよね)

書籍『次世代トップエリートを生みだす 最難関校ミネルバ大学式思考習慣』を読みました。

 


米国の一流大学群(いわゆるアイビーリーグ)を抜く優秀人材の輩出校として突如現れたミネルバ大学での教育カリキュラムに沿った、機械に仕事を奪われる(AIに知的労働者の仕事すら奪われるかもしれない)時代を生き抜くのに必要な思考方法について書かれた書籍です。

これからの時代は「人にしかできないこと」ができる人材を輩出することが大学教育に求められることだと筆者は主張しています。 

では、その「人にしかできないこと」は何かというと、以下の3つだと言います(ここは異論ありそう・・・)。

  • 問題を発見、解決法を設計する
  • 複雑な作業を単純作業に分解する
  • 対立を調整する


ミネルバ大学では、1年次に(上記を含む?)これからの社会で必要とされる「実践的な知恵」を体系立って教えており、本書では、その内容を紹介・説明しております。

「実践的な知恵」は、大きく二つのカテゴリー(大分類)、四つのコンピテンシー(核となる能力)に分かれ、さらに各コンピテンシーごとに三つから四つの思考動作に分類されます(下図)。そして、更にその下に1~3階層程度の幅広い分野に応用できる考え方(コンセプト)が紐づいています。 

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実践的な知恵の構成要素(大分類)

 

コンセプトは、全部で113個あり、本書では一通り、それらの各コンセプトについて紹介しています。ただ、前半は丁寧に説明されているのですが、後半になるにつれてだんだん一つ一つの文量が減っていき、かなり竜頭蛇尾感があります。

また、筆者自身もあとがきで書いていますが、正直に言って、かなり読みづらいです。

 

まぁ、大学のシラバスの解説書みたいなものなので、ある程度読みづらいのは仕方ないのかもしれませんが、もう少しどうにかならなかったのかと思ってしまいました(実際にこれを書くのは大変だっただろうな・・・とは思うので、安易に批判するのも良くない気もしますが、個人の感想なのでお許しください)。


本書は、ミネルバ大学が考えるこれからの社会を生き抜くのに役立つ「実践的な知恵」の体系を知って、自分が強化したい領域や興味を持つコンセプトを見つけるために読むと良い気がします。

この書籍だけを読んで、各コンセプトを正しく理解し、実生活において活用できるほど習熟できるかというと、それは無理な話です(それができるなら、ミネルバ大学が不要になる??)。でも、自分がそもそも何を知らなくて、何を学ぶべきかを知ること自体は価値があることだと思いますので、それをチェックするためのツールとしては役に立つものと思います。


また、本書で取り上げられているコンピテンシーやコンセプトは、使いこなせれば役に立ちそうなものばかりでした(少なくとも、私がもともと知っていたコンセプトに関しては、経験上そうだと思います)。

 

 

さて、いつもは、読了した書籍の中で、役に立ちそうな部分を抜粋&サマリーして紹介しているのですが、本書は割とフラットに113個ものコンセプトが紹介されていて、そのどこかを抜粋するというのが難しいため、本書の企画と執筆、編集に関して感じたことを書いてみたいと思います(以降は、私の勝手な想像に基づく感想です)。

 

 

まず企画についてですが、本書の企画を担当された編集者と筆者は、恐らくミネルバ大学のユニークなありかたや実現しようとしているコンセプト、そして短期間にあげた目覚ましい実績を知って、その内容を日本にも広めたいと考えたのだろうな、と思います。

 

私自身、冒頭に説明されていたミネルバ大学の紹介(下記に抜粋)を読んで、自分が学生時代にこんな大学があったらチャレンジしてみたかったと思うくらいに魅力的でした(まぁ、学力面でも財力面でも、実際に受験しても合格もしなかったろうし、仮に入れても卒業できなかったと思いますが)。


ミネルバ大学の特徴

  • 校舎を持たず、世界の7つの国際都市を移り住む(異文化・多様性を理解)
  • 講義を禁止、テストを廃止。授業はすべて少人数のディスカッション(より効果的な教授法)
  • 最新の情報技術を活用した学習(ツールによるアシスト)
  • キャリア構築支援(あまり書いてありませんでしたが、超一流企業のインターンに行けるチャンスがあるようです)
  • 米国の有名大学の1/3~1/4の学費(約150万円/年:アメリカの大学としては安い)

ミネルバ大学が目指すのは、『まだ存在しないような職業においても役に立つ知識、覚えたらそれで終わりではなく、自ら発展させていける、思考・コミュニケーションスキル、つまり「実践的な知恵」を提供する』ことなんだとか(by 創業者)。

 

そして、1年次に全学生に共通して履修させる「実践的な知恵」は、全ての社会人に役に立つ、また、今の日本に必要なのではないか、との思いに駆られて、本書で紹介しようと考えたのだろうと感じました。

 

そして、体系的に定められた「実践的な知恵」なので、それを取りこぼすことなく網羅的に紹介しようと考えたのだと思いますが、本編が約280ページで、二つのカテゴリー、四つのコンピテンシー、十三個の思考動作、113個のコンセプト、計132個の要素を紹介するとなると、1要素あたり2ページ強(280ページ÷132要素)、実際には、導入部分や各章の区切り、図表なども含まれるので、もっと少ない文量で説明する必要があります(実際、終盤に登場したコンセプトの中には、十行未満で説明されているものもありました)。

これでは、各コンセプトの説明が薄くなってしまい、読者が各コンセプトを十分に理解したり習得するのは無理だと事前に分かっただろうと思います。

 

であれば、全コンセプトの紹介は、巻末についている一覧表の様に簡単なもののみにして、一部のコンセプトだけ深掘りして、ミネルバ大学が教える「実践的な知恵」がどの様に実社会で役立てられるのかを具体例を交えて紹介するようなことは考えなかったのでしょうか。

実際には、さまざま検討した上で本書の構成にしたのだと思いますが、その際の比較検討した案となぜ他の案にしなかったのかの理由に興味を持ちました。また、本書の説明は、結構、事前知識を要求するものが多く、最後まで読む読者がかなり限られそうに感じました(私は、ちょくちょく調べながら読んでました・・・(汗))。ので、対象読者の設定をどの辺に置いたのかも気になりますね。

 

もしかしたら、企画時点で考えていた出来上がり像と、実際に出来上がったものに乖離があったのかな?とか、いろいろ妄想してしまいました。

 

 

次に、執筆についてですが、前半の方が丁寧で後半になるにつれてだんだん内容が “あっさり” していった様に感じました。

コンセプト数でページ数をざっくり割り算すると、後半の方が1コンセプト辺りのページ数は多いみたいなのですが、後半の方が演習問題的な説明や例を使った説明が少なく、単なる項目説明が多くなっていった印象があります。

 

なので、後半の方は時間も押している中で、丁寧な説明を書くエネルギーが足りなくなってきたのかな・・・とか、「当初の予定期日を約半年過ぎて完成した」とあとがきに書かれていたので、途中、そうとう執筆するのに苦労したのかな、などと想像してしまいました。

私は書籍を執筆したことはありませんが、作業の締め切りに追われることは頻繁にありますし、大きなプロジェクトの場合、途中で息切れするような思いに駆られることもしばしばなので、読んでて(少し)胸が苦しくなりました・・・

 

最後に編集についてですが、本書は最近読んだ書籍の中では、かなり誤字や誤植が多かったです。一目見れば確実に分かるだろうって誤りもちょいちょいあったので、おそらく校正する時間がなかったんだろうなぁ・・・筆者も編集者さんも締め切り前はさぞ大変だったんだろうなと、入稿前の修羅場っぷりを妄想してしまいました。

この校正作業って、本人は気を付けて書いているつもりでも、なかなか気づかないものなんですよね。。。編集者さん側も、何度も読んだところだと、ちょっとした修正で誤字が混ざりこんでも、脳内で覚えているフレーズで補正してしまって、初見の人なら100%気付くようなレベルの誤字であってもスルーしちゃうんでしょうね。

で、それが活字となって直せない形で世に出されてしまうという・・・出版恐ろしや。

 

と、このように、書籍の内容の理解に奮闘するとともに、執筆・出版の大変さを想像しながら読んでしまいました(中身を理解するだけが読書じゃないから、良いですよね?)。


読むのが難しい書籍なので、無理にと言う気はありませんが、もし興味を持たれたら読んでみてください。

そして、コロナ禍の中で、いまミネルバ大学がどうなっているかも興味津々です。


ではでは。