書感:ザ・ゴール2 思考プロセス - It's Not Luck(理論は簡単? ⇒ 実践は難しい ⇒ 結果は大きい!)

書籍『ザ・ゴール2 思考プロセス - It's Not Luck』を久々に読み直しました。

 

この書籍は、前作のザ・ゴールと同様に「Theory of Constraints (以後、TOC):制約条件の理論」に基づいたビジネス小説です。

 

本作は前作の10年後という設定で、前作では見事に工場の業績を回復させたアレックス・ロゴ氏が、数年前に買収した3社を担当する多角的事業を担当する副社長として、大赤字に転落していた各社の業績改善に取り組んでいるところから始まります。

TOCによる生産管理手法を駆使して各社の業績改善に取り組んでいて、黒字化は達成するなど少しずつ手ごたえを感じ始めていますが、そこに本体企業の業績改善の為に3社を半年以内に売却せよという取締役会の決定がなされます。

 

業績改善に取り組んでいるとはいえ、まだまだ途上の企業達は、そのままでは買収したときよりも大幅に低い価格で売り払われ、せっかく取り組み始めた事業改革も止められ、コストカットの名のもとに担当させている部下たちもクビを切られかねません。また、本人も、高額で買収した企業を二束三文で売り払ったダメ事業部長として、今後のキャリアを絶たれかねません。

3社はすべて製造業ではありますが、印刷業、化粧品製造、工場の製造装置の製作と、それぞれ異なる業界で事業慣習も異なるし、上記の状況のため、新規の投資は全て凍結です。業績改善をするには、生産性の改善にとどまらず、大幅に売り上げを高める必要があります。それも新規投資を伴わず、にです。

そして、このシリーズの面白いところでもありますが、今回もロゴ氏の家族の問題が取り上げられます。今回は奥さんではなく子供たちが直面する問題をお父さんが解決の支援をするという仕立てですが、失敗すれば子供たちとの関係も壊れかねないというハラハラを伴う内容となっています。また、お年頃になってきた子供たちとの関係改善も兼ねています(身につまされるなぁ・・・)。

 

そんなこんなで、多種多様な問題をどうやってスムースに解決するか?というのが本書のテーマで、その為の思考プロセスを紹介しています。サブテーマとしてはマーケティングということになるかと思います。


ところで、前作の最後に示されたTOCの基本プロセスは、
 A.何を変えればよいか? (What to change?)
 B.何に変えればよいか? (What to change to?)
 C.どのように変えればよいか? (How to cause the change?)
の3ステップでしたが、これだけだと抽象的過ぎて、実際の問題を前にしては、何をどうして良いかが分からないと思います。

 

そこで、上記の3ステップを、どの様な問題に対しても実践できるようにする具体的な手法=思考プロセスが、本を通じて紹介されています。
思考プロセスには、以下の5ステップ(手法)があります。
(必要な部分だけつまみ食いすることも可能ですが、全部使うと効果を最大限に発揮できます)

 

  1. 現状問題構造ツリー (Current Reality Tree)
    問題を解決するにあたって「何を変えれば最大の結果が得られるか」(=多くの問題を一気に解決するコアの問題)を明確にするための手法。
    現状の問題点(好ましくない結果:Undesirable Effects (UDE))を列挙し、それらの因果関係を図示することで、多くのUDEの解消につながるコアとなる問題を浮き上がらせます。非常に複雑な問題だったとしても、コアの問題は、たいてい1つか2つとなると考えられます。
    上記のステップAを特定するために使います。

  2. 対立解消図 (Cloud)
    あちらを立てればこちらが立たず、となるコンフリクト(対立)を解消するするための図。
    対立点と各対立点の目的、さらに上位の目的までたどり、両対立点の共通の目的を見つけることと、それらの関係のいずれかを解消するようなソリューションをを検討します。多くの場合、各要素間の関係の前提を見直し、広い視野で検討することになります。
    対立点を明確にした上で、それを解消するソリューションを見つけると、コンフリクトが雲の様に消えることから、英語版では「雲(cloud)」と表記されます。
    上記のステップBを見つけるために使います。

  3. 未来問題構造ツリー (Future Reality Tree)
    対立解消図を使って見つけた問題解決策を実行したらどうなるかを検証する為の手法です。
    根本的な問題が解消した状態で、現状問題構造ツリーがどう変化するのかを示し、新たな問題が発生しないかを検証します。
    つまり、対立解消図で考案したソリューションにほころびがないかを確認する作業になります。
    上記のステップBの一部となります。
    →ダメだった場合は、ステップ1やステップ2に戻ってやり直します。

  4. 前提条件ツリー (Prerequisite Tree)
    「どのように変えればよいか」を考えるための第一歩で、目標を達成する仮定で発生する障害(前提条件)とそれを克服する中間目標を検討します。
    「ステップ2、3」で定めた「あるべき姿」から出発して「この状態が成り立つにはどのような障害が考えられ、それを避けるにはどのような前提条件が必要か?」ということを考えていきます。その前提条件に対しても、同様にどのような障害があるかを考えていくことで、ゴールから逆算でやるべきことが展開されていきます。
    上記のステップCの一部になります。

  5. 移行ツリー (Transition Tree)
    前提条件ツリーで表した各中間目標地点を達成するのに必要なアクションを洗い出していきます。
    これは、詳細実行計画であり、上記のステップCの一部にあたります。

 

上記の様に文章で要点だけを書いても何が何だか分からないと思いますが、本書の中では、それぞれ(小説内の)実例を図示しながらステップ by ステップで実践するところが描かれているので、ぜひ読んでみていただきたいと思います。


あと、マーケティングについても、上記を活用することで新たな設備投資などを行わずに、大きな効果が発揮する様子が描かれています。

残念ながら、私はマーケティングについて実践する機会がなく経験がないのですが、考え方としては理解できます。

企業が販売する製品やサービスは、顧客の問題・課題を解消したり、目的・ニーズを満たすために購入されるわけですが、多くの場合、売る側はそれを明確に認識できていません。

そこで、顧客の本当の問題・課題を現状問題構造ツリーで分析し、コア問題を解消する売り方を考案することができれば、製品やサービスそのものを大きく変えることなく、より高く売ったり、より多くの顧客に売ることができるというものです。

 

本書の中では、以下のような例が挙げられています。

  • 包装用紙納品のリードタイムを短くする代わりに、契約のロットを大きくする+キャンセルは2週間前までOKとして、顧客の包装用紙の無駄をなくす(マーケティングの都合でデザインを変えると、古いデザインの包装用紙は全部無駄になる&頻繁にそうした廃棄が発生していた)
  • 売店に在庫を持って貰うのではなく、一定の売り場面積を確保してくれたら在庫はメーカー側持ちとして、売れた分だけフィーを払って在庫を補充する形式(富山の薬売り方式)=流通在庫を減らして新商品発売時の型落ち商品のたたき売りを少なくする(小売店は在庫を抱えないで済むのでキャッシュフロー楽になる)+毎日売れた分を報告してもらうことで、生産計画に正確な需要を反映することで過剰在庫も欠品も防

BtoBとBtoCでは異なると思いますが、少なくともBtoBには適用できそうな気がします。


ともあれ、この思考プロセスは、用途を限定していないので、どの様な問題であっても適用できるそうです。

その証拠?として、子供たちの友人関係の問題や、父親の車を借りたい息子と貸したくない父親(主人公)のコンフリクト、主人公の次の転職先の検討など、多岐に渡る問題に適用する様子が描かれています。

 

私自身、ステップ1~3まではたびたび仕事で使って、成果も出せています。

が、ステップ4、5については、計画を立てるまでは良いのですが、実行段階で挫けることも多いので、検討の深さが足りないのか、何か見逃している問題があるのか・・・
うまく行ったこともあるので、全然使えないということもないと思うのですが、問題が大きいと自分の管轄外の人たちを巻き込むことになるので、そこが課題な気がします。

プライベートなことだと、ステップ2で問題を解消するアイデアすら出てこないことも・・・うーん。。。(たぶん、感情的になって冷静に考えることができないからなんでしょうが、難しいですね)


ともあれ、実践するのは難しいですが、この思考プロセスは有用な手法なので、学ぶ価値はあると思います(うまくできないんだよねと、書いて置いてなんですが)。

ということで、もし興味を持たれた方がいたら、ぜひ、読んでみてください。

 

ではでは。