書感:コンサルを越える 問題解決と価値創造の全技法(頭が良いだけでは足りない。これからは共感力と人間力だ!←ハードル高っ!!)

書籍『コンサルを越える 問題解決と価値創造の全技法』を読みました。

 

本書は、マッキンゼーでシニアパートナー、ボストンコンサルティングでシニアアドバイザーを務め、一橋大学大学院院国際企業戦略研究科教授として活躍されている名和 高司氏が記載したコンサル技法に関する書籍です。

 

マッキンゼーとボスコンという戦略コンサルの頂点に立つ2社で使われる問題解決の技法&思考法と、その限界および限界の越え方について書かれています。

この書籍が秀逸なのは、コンサルが使う基本的な技法を分かり易く解説しつつ、各技法の限界というか利用する上での注意点とその回避策も合わせて提示しているところでしょうか。

また、普通レベル(?)のコンサルタントが陥りがちな分析のみで終わるのではなく、実際に課題を解決し、さらに新たな価値を創造するにはどうすれば良いかも提言されているところが、単なるノウハウ本より一歩踏み込んでいると思います。(今となっては、文中でペッパー君を推しすぎているのが残念な気もしますが)

 


さて、大手コンサルタントを使ったことがある、もしくは、関わったことがある方の中には、彼ら/彼女らの分析や提言は確かに理屈の上では正しいのかもしれないけれど、現実的ではないと感じるケースに遭遇したことは無いでしょうか?

理想的ではある(かもしれない)けれど、実現できる気がしない、もしくは、本当に実現不可能な(誰だよこの素人が作ったプランは?!っていう)ケース。。。

私は、大手コンサル会社が描いた無謀なプランが破綻した後に、プランの修正から実行プロジェクトの立て直しに入ったことがたびたびあります・・・今もあるお客様でいくつかの大手コンサル会社が関わって実現できなかったことについて、貴社で何ができるの?と嫌味を言われつつ、とあるプロジェクトの立て直し中だったりします(泣)。

 


それはさておき、名和氏はマッキンゼーとボスコンの両者で活躍された方なので、両者の対比もたびたび出されるのですが、ファクトベースのマッキンゼーと心理学重視のボスコンとされて、ボスコン側のアプローチの方を推奨されています。

これは、理論的にはあっていてインパクトのある提言をするけど、提言しただけであとは頑張ってね、のマッキンゼーよりも、顧客企業に寄り添って問題や解決方法の気づきの部分からお客様自身に見つけ(と思わ)させるボスコンのアプローチの方が、実際に問題・課題を解決することができるからです。

 

そうなんですよね。「いくら貴社の問題は○○で、原因は△△です。その為、◇◇という戦略を実施するべき」と戦略を提言し、その◇◇が目が覚めるようなアイデアだったとしても、その提言を受けた企業が実践できなければ意味がありません。

また、往々にして、そうした斬新/大胆なアイデアは実行時に直面するこまかな現場の課題については考慮していません。仮に経営陣がやる気になったとしても、現場は混乱もしくは大きな負荷がかかって不満が蓄積・・・結果、やってる振りが蔓延し、実際の効果は全く出ず、なんてことになりがちです。

特に、問題の解決にカルチャーチェンジが必要なケースでは、一般に社員の現状維持バイアスは恐ろしいほどまでに強いですから、ほぼ100%失敗するのではないでしょうか。

そうした点で、ボスコンのアプローチは時間はかかるものの、現場も巻き込んで社員に気付かせて実行方法も考えさせる(&実行する上で直面する問題・課題の解決にも付き合う)ので、成功確率は各段に高くなります。

 

筆者曰く、マッキンゼーは3ヶ月で成功確率10%、ボスコンは3年で成功確率は70%となるようです。

一般に、期間がかかる=費用も嵩むので、仮に期間≒コストとした場合(長期間プロジェクトは人数も多くなりがちなので、もっとかかる可能性が高い)、12倍のコストで7倍の成功確率と考えると、必ずしも費用対効果はボスコンの方が高いとは言えないと思いますが、結果が出なければ(そこから学ばない限り)その分の支出はドブに捨てることになりますから、悩ましいですね(私なら支払い余力がある状況でこの2択の場合ならボスコンにすると思いますが、ボスコンを選択して失敗したら痛すぎる・・・)。

私は、ボスコンの方と関わったことがないので分かりませんが、一度、ご一緒してみたいものです。(元マッキンゼーの方とは一緒に仕事したことがありますが、確かに、地に足がついてなかったような??? たまたまかも知れませんし、マッキンゼーの立場での仕事ではなかったので、マッキンゼーの評価にはなりませんが)

 

ともあれ、本書の中身では、コンサルの基本技として、以下の事項が書かれます。

 

いずれも良く知られた内容ばかりですが、単なる紹介ではなく、実践する上でのポイントや注意点が書かれているので、既に知っている方も復習のつもりで読んでみても良いかもしれません。

例えば、問題解決プロセスのところで言うと、一般に問題解決のプロセスは以下のステップを踏むとされています。

問題解決プロセス

  1. 問題を定義する
  2. 問題を構造化する
  3. 優先度をつける
  4. 分析方法を設定する
  5. 分析を実施する
  6. 発見方法を統合する
  7. 問題解決法を提言する

 

最初の2ステップは課題設定 もしくは 課題定義 のことで、言い換えると、何が本質的な問題なのかをきっちりと見極めるということです。いくら適切な問題解決方法を見つけたとしても、肝心の解決すべき問題が間違っていたら、努力の無駄となりますからね。

例として適切かは分かりませんが、病気の根本原因を叩かずに、末端に現れる症状にばかり対処していても意味がないというか、問題が再発してしまうということなのでしょう。根本原因が〇〇癌だとして、下血の対処や痛み止めだけ処方してても、普通は癌は治らず悪化するだけです。このため、課題設定は、コンサルの仕事の中でも極めて重要なポイントとなります。

で、ここで本質的な課題を見つけるためのポイント/注意点として、以下のことが書かれています(他にも書かれてますが、抜粋です)。

 A. コインの裏側に解はない
 B. NOT ボイル・ジ・オーシャン!
 C. WHY NOT YET? を追い詰める

 

A. コインの裏側に解はないは、単純な問題点の裏返しは解決策にはならないということで、例として「いまの出版界と弊社の問題は返品率の高さです」、だから、「返品率を下げましょう」と言うのは、課題の指摘になっていない訳ですね。知りたいのは、売上低下や返品率向上を引き起こしている本質的な問題(とそれに対する対策)だからです。

 

B. NOT ボイル・ジ・オーシャン!は、本質的な問題を探るときにいきなり無数にあるファクトを集めて全部分析するようなアプローチを取ってはいけない、ということです。

無数にあるファクト=海、それを全て分析=沸騰させる、のは労力がかかりすぎて現実的ではないし仮にできたとしても効率が悪すぎる+あらゆる余計なものがいっぱい見えてしまうため、本質に迫れないということです。なので、初めにある程度分析する為の仮説を立てて、それに関連するファクトだけを集めて分析する必要があるということです(もちろん、仮説が外れることはありますが、それはそれで一つの分析結果となり、別の仮説を立てれば良いだけです)。

 

C. WHY NOT YET? を追い詰めるは、5 WHY?(なぜなぜ5回)をやって本質的な問題を特定したとして、その問題を取り除きましょう!と単純に考えてはいけないということです。本質的な問題と言うのは、往々にして、ある程度解決策も分かっていて○○すべきなのは百も承知だけれど、できていないから、問題となっています。なので、「WHY NOT YET? = なぜ、まだそうなっていないのか?」を解かない限り、問題解決はできないということになります。そうなっていない理由に対して、それを解決する HOW? が答えということですね。そして、なぜいまそれができていないか?というところに、その会社固有の病気が潜んでいる、と言う訳です。

これ、もう「ホントそれな!」って、膝を叩いちゃいました。大体、○○が出来ていないのは△△だから◇◇すべき、の◇◇すべきなんてのは、(割と)すぐに思いつきます。でも、それができていない原因って、たいていが、会社のルールだったり、組織風土(=部門長や所属社員の考え方・習慣)だったりして、すぐには変えられない・変わらないものなんですよね。

私が前職の時に、十分なスキルを持った社員が不足していることが営業成績の低さやその後のサービス提供時の問題発生につながっているので、体系的に人材育成をやりましょうといって、人材育成施策を立ち上げたときも、人事評価制度(スキルを上げても評価されない、習得したスキルに応じた業務を割り当てられない)や組織風土(上長がトレーニングする時間があるならサービス提供の実務をやれと言ってトレーニングを受けさせない、座学だけやっても実践では使えないから意味がないと反対する、などなど)の問題に直面して、全くうまく行きませんでした。。。

そうなるのも見越して、経営層に様々な提言や具体的な対策についても相談していましたが、力不足で十分な協力を得られなかったんですよね。根本的な問題に労力を注ぐ前に、目の前の火事を消すというか出血を止めるのが先だと。。。でも、その火事や出血を起こす原因は・・・と言っても、「お前が言ってることは分かるが、これ以上のリソースは割けない」の一点張りでした(転職してしばらくしましたが、現場を支えていた優秀な社員がどんどん辞めてるので、大丈夫かいな?と心配してます)

 

 

さて、コンサルの基本テクニックもまだまだあるのですが、本書ではそれだけではなく、超一流コンサルタントのスキルや、コンサルタントが単なる問題解決屋だけではなく、新たな価値を創造する価値創造コンサルタントになる為の提言も本書では記載されています。

超一流コンサルのスキルと書かれると私には到底手に届かない世界な気もしますが、問題を解決するだけではなく新たな価値を創造するというのは、できれば実践したいと思います。

 

超一流コンサルのスキルでは、大前研一氏を題材に、1.左脳(ロジカル)と右脳(クリエイティブ)を連結する力(ジョイント力)、2.異なる要素を関連付ける力(コンバージェンス力)と、3.究極からの逆算(バックキャスティング力を挙げています。

 

始めの2つは、イノベーションを起こす際に必要とされる能力と言うか発想法というかで良く取り上げられる気がします。3つ目のバックキャスティング力は、ある領域において、3年後、5年後、10年後といった特定のタイミングにどうなっているかは分からなくとも、究極的にはこうなる、という状態から逆算して考える、というものです。
例として挙げられていたのは、1990年代前半(インターネットの誕生間もなくで、日本ではまだ本格的な普及が始まる前)の時に「いずれ電話はなくなる」という分析を出されたそうです。そのタイミングが2030年になるのか、2050年になるのかは別にして、いずれ確実に「電話がなくなる日」がやってくるというのを、横軸に時間、縦軸に需要を対数表示でとった直線グラフで示し、電話事業が確実に地面にぶつかるさまを見せられたそうです。

対象クライアントの幹部の間では、電話は残るとか、少なくとも今後数十年は大丈夫だ、などという議論がされていたのに対し、1枚のグラフを前に「いずれ電話はなくなって、全部データ通信に化けます」と断言されたのだとか。

・・・すごいな。今の時点ならそれを言っても当たり前と受け止められるでしょうが、インターネットが誕生して間もない頃にそれを断言するっていうのは、ちょっと神がかった未来予測の様にも感じます。

これって、三菱自動車が2009年にi-Mievを出した数年後(2012年くらいまで?)に、「いずれガソリン車は全てなくなる」って断言するようなものでしょ?

テスラが成長し、各国がガソリン車禁止を宣言した今ならそれを言ってもおかしくはないけど、非ガソリン車自体ほとんどないタイミングで言ってもまともに相手する人はほとんどいないんじゃないかって思います。また、それを説得力を持って発言するというのは非常に難しかったのではないか・・・と。(だからイーロン・マスク氏がすごい訳ですが)


もう一つ、超一流コンサルのスキルとして挙げられていたのが、JQ(Judgement Quality:(何が価値なのかを)判断できる能力)です。IQ(Inteligence Quotient:知能指数)、EQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)と並んで重要なスキルとのことで、何に価値があるのか、および、何が善で何が悪なのかの判断ができることが一流と超一流を隔てる壁になるようです。

普通のコンサルは高いIQで理詰めで(ロジカルに)やるべきことを提示する。一流のコンサルは、IQにEQが加わりクライアントをその気にさせ成果を出させる。超一流のコンサルは、JQによりクライアントにより良い価値を創出させるという訳ですね。

IQは訓練で鍛えられる。EQもある程度は訓練可能でしょう(半分は資質で半分は経験な気もするけど)。。。でも、JQって訓練するというよりも人間としての考え方の軸(=堅く言うとその人の人生哲学)が必要な領域だと思います。

筆者はポストコンサル(=単なるコンサルを越えた素晴らしいビジネスパーソン)になる為には、1. 洞察力、2. 共感力、3. 人間力 が必要としています。前の2つは、IQとEQに対応する世界かと思いますが、最後の人間力は、要素分解すると以下になるようです。

  • パースペクティブ(Perspective):ものの見方、自分らしい軸があるか
  • パーソナリティ(Personality):人格、人徳、EQ&JQ
  • パッション(Passion):情熱、本気度がほとばしっているか

 

あー、なんか本当に出来るビジネスパーソンって、こうだよね。と思います。日本人は最後のパッションを表すのが苦手な人が多いような印象がありますが、でもホントに凄い人は、なんだかんだパッションもほとばしっている気がします。

あと、真ん中の人格や人徳って、狙って鍛えるのは難しそうですね。もともとの資質に大きく左右される上に、苦労した経験の積み重ねな様な気もするし、環境(人間関係)にも左右されがちでもあると思います。


でも、そっかー、これからは、優れたビジネスパーソンになりたければ、担当業務だけ出来れば良いのではなく、人間力も必要なんですね。実際に仕事をしていて、社内やお客様の協力を得るには、(相手への)共感力や(相手からの)協力を引き出す巻込力が必要だとは感じていましたが、人間力ですか・・・自信ないなぁ(ま、人からどう見られるかは、あまり気にしてないんですが)。


さてはて、本書の最後には、社会起業家の話やCSV(Creating Shared Value)、SDGsが取り上げられています。今のところ、自分自身が社会起業家になることはあまり想像できませんが、大事な視点だとは思います。所属企業内でもSDGsCSRの啓蒙が行われていますし、自宅でもできる範囲でSDGsを意識した生活習慣を心掛けていますしね(大したことはやってないけど)。

 

ともあれ、本書は表面的にテクニックを紹介するだけではなく、筆者自身の長年の経験に裏打ちされたポイントがたくさん詰め込まれているので、コンサルタントだけではなく、何かしら組織の改革に携わるような方は是非読んでみてはいかがでしょうか?
きっと参考になると思いますよ。


ではでは。