書感:「愛国」という名の亡国論(マスコミの報道を鵜呑みにしてはいけません)

書籍『「愛国」という名の亡国論 --- 「日本人すごい」が日本をダメにする』を読みました。

タイトルが危なっかしい感じですが、内容自体はデータや事実に基づいて書かれていると思います。 著者が元朝日新聞の元記者という経歴の為か、朝日新聞に関する指摘が多すぎる傾向がありますが、総じて日本のマスコミの問題点、その影響の危険性を訴えています。

 

この書籍では、まず初めにいくつか典型的な日本礼賛番組の嘘について例を挙げて指摘しています。その上で、愛国報道の多くは、日本を何かとこじつけて「世界一」であると主張し、それには以下のパターンがあると言います。

  • 自己満足型「世界一」パターン:海外ではそこまで価値を認められていないが、日本人だけが価値があると思い込んでいる点を外国人に見せつけて驚かし、そのリアクションををもってして「この分野では日本が世界一」だと自己満足的な優越感に浸るパターン。秒単位で発着時間を管理する山手線、礼儀正しく列に並ぶ乗客、とか(秒単位の正確性とか行儀よく列に並ぶことにそこまでの価値を感じない国の人も多いのでは?)。
  • 勘違い型「世界一」パターン:まったく異なる2つの事象を強引に結びつけ、因果関係があるかのように解釈してそれを「世界一」という結論に導くパターン。かつて「日本が(GDP額で)世界第2位の経済大国になれたのは技術力のおかげ」とか(実際には、日本が先進国第2位の人口大国になったから・・・)。
  • 手柄横取り型「世界一」パターン:個人の業績や、記録が高く評価されただけなのに、その評価を「日本人」全体にあてはめようとするパターン。非常に優れた技を持つ職人を持ち出して、「日本の技術力が高い」という結論に持っていく(いや、優れてるのはその個人の方であって日本人すべてではないですよね?)。

 

こうした発想がでてくる淵源について、著者は戦前の優生学などにルーツがあると主張しています。また、こうした報道を繰り返すマスコミは、必ずしも悪意があるわけではなく、単に視聴率が欲しいという単純な動機によるものとも言っています。

ただ、こうした偏った報道を浴びるように見続けると、徐々にそれが真実だと思い込むようになり、ファシズムの台頭につながりかねないと警告しています。

 

日本人がそこまで愚かであるとは思いたくはありませんが、私個人の経験でも、いくつかの国も人たちと一緒に仕事をした際に、日本人の同僚の多くが「○○○人はいい加減で信用できない。」と口々に言っているのを聞き、「そんなの個人個人違う話で、日本人のTさんやIさんだって酷いもんじゃない」と思っていたのを思い出しました。

ファシズムとは違うと思いたいですが、日本人=優秀、○○○人=怠惰・いい加減という先入観で固まっていました。実際には、その業務で一緒にいた○○○人も人によって全然違くて、仕事が丁寧かつ時間に正確な人もいれば、時間にルーズで作業もいい加減な人も両方いました(日本のメンバーも同じです)。

 

ともあれ、これでもかと様々な事例を出して、日本礼賛的な報道の問題点を挙げるとともに、戦後の報道量を分析し、愛国←→反日を振り子のように行き来しながらその量と極端さを増してきている現状とその原因に対する考察を述べています。

朝日新聞社の歴史に基づく、戦前からの思想の影響については、正直、あまり賛同できないところではありますが、自画自賛報道が増えることによる悪影響は確かにあると思いますので、日本のマスコミの問題点を客観的?に見るという点で読む価値はある本だと思います。

 

個人的には、日本のマスコミは、必要以上に細かい失敗を責め立てて萎縮させることやその割にはある事象の本質的な問題点には全く触れないところの方が問題だと思っています。

例えば、コロナ禍の日本の対応を狂ったように責め立てるニュースバラエティ番組を見ていると、頭が痛くなってきます。

お亡くなりになられている方がいるので、日本政府の対応が素晴らしい、万全だという気は全くありませんが、マスコミがワクチン勝ち組だとして見習うべきだとさんざん持ち上げるイギリスやアメリカは、人口当たりのコロナ感染者数や死亡者数も一時期は非常に多かった訳ですし、アメリカは今(当ブログ執筆時点)でも日本よりだいぶ高い状況が続いています。

www.yomiuri.co.jp

これまた非常に個人的な意見ですが、他国と比べればかなり感染者数が少ないのにも関わらず、コロナに対応するための十分な医療体制を築けていないことが日本のコロナ対策の問題点なんではないでしょうか?

実際にコロナ対策に携われている医療従事者の皆様は、家に帰ることもできないギリギリの戦いをされている方も多いと聞きますし、自身も感染リスクを抱える中、心身をすり減らして対応されていると思いますので、そうした現場の皆様の問題ではないと思います。

日本の医療制度の問題なのか、危機対応能力の問題なのか分かりませんが、この辺りをマスコミの方には冷静に取材&分析して対策案を含めて報道して欲しいのですが、素人の芸能人がわーわーぎゃーぎゃー騒いでいるのを見ると、井戸端会議に公共の電波を使うな!と言いたくなってきます。(上から目線で批判ばかりしている司会者さん達は一体何様なんだろう?)

 

すみません。書籍の内容から外れてしまいました。。。

日本のマスコミの問題点を愛国報道という観点から分析している書籍ですが、メディアリテラシーを持つことの大切さを考えるきっかけになると思いますので、もし興味をお持ちなられたら、読んでみてください。

禁煙した時のこと(失敗談と成功時のコツなど)

いまから10年以上前の話ですが、禁煙に挑戦した時のことを書こうと思います。

 

はじめに、私がどのくらい喫煙していたかを書きます(そのほうが、もしこのブログを見た禁煙志望者がいたら、参考になるかも知れませんので)。

私は、20代前半から30歳になるまで喫煙していました。6mg~8mgくらいのタバコを1日平均1箱くらいでしょうか。飲み会や友人との麻雀などをしたときは、2~3箱吸って、翌日、具合が悪くなっていたのを思い出します。ヘビースモーカーというほどではないですが、それなりには吸っていたかと。

いま思えば、お金があまり無い中でよくたばこ代を捻出してたものだ・・・

 

さて、私の喫煙歴はそのくらいにして、本題の禁煙です。実は、禁煙には3回失敗して、4度目の挑戦で成功しました。はじめの2回は3ヶ月禁煙して挫折し、3度目は6ヶ月我慢したのに、再開してしまいました。。。(実際には、数日とか、1週間くらいのプチ喫煙はもっと挑戦してますが、何回挑戦したか覚えてないし、2~3日辞めてたところで禁煙とは言えないと思うので、省略?します)

で、それぞれ失敗した理由ですが、1回目は、職場の同僚や先輩たちとの飲み会の場で、目の前でスパスパ吸われて(いま思えば、禁煙やめさせるための嫌がらせ)、つい手が出てしまったというものです。

2回目はあまり覚えていないのですが、飲み会ではなく、たしか職場の先輩たちと麻雀していて負けが込んで来たときに、気持ちを落ち着かせようと、先輩からタバコを分けてもらったのだと思います。いずれにしても、衝動的なものですね。

そして、3回目は、1回目と同じく飲み会の場です。この時は仲の良い友人たちと飲んでいた時だったと思いますが、タバコを吸わないメンバーもいたので、喫煙組と非喫煙組に分かれて座っていたと思います。6ヶ月経って、普段はあまりタバコのことを思い出さなくなっていたタイミングだったので、もう大丈夫と思っていたのですが、酔いが回ってきたタイミングで席替えした時に、目の前にあったタバコに気が付いたら手が伸びていたのでした。。。

このように、お酒が入ったりして正常に判断できないタイミングで、目の前でタバコを吸われている&タバコがある(分けてくれる人がいる)状況になると非常に危険です。

ので、禁煙を始めてから1年未満の間は、極力、タバコに近づかない&(可能なら)飲み会も避けた方が良いでしょう。飲み会を避けるのが困難な場合は、タバコから一番遠いところに陣取る&タバコの箱に近づかない様に徹底すると良いのではないかと思います。(1年過ぎたら、同様の状況に置かれても大丈夫でした)

 

失敗談はそのくらいにして、これから禁煙するときのコツをいくつか書いていきたいと思います。大きく分けて、4カテゴリ?に分けられると思います。

  1. 事前準備
    禁煙をするといっても無策で臨めば、ほぼ間違いなく撃沈すると思います。
    よくニコチン中毒と言いますが、その名の通り「中毒」なので、普通にやったら、喫煙衝動に打ち勝てません。特に、それまでヘビーに吸っていれば吸っているほど中毒症状はキツイので、それを緩和するための準備として、減煙をしておくことをお勧めします。
    徐々に弱い煙草に切り替えていき、一度は本数が増えたとしてもその本数を減らして、一日に接種するニコチンの量を減らしておきましょう。私の場合、成功した時は3ヶ月以上かけて徐々に減らして、1mgのタバコを2日に1箱まで減らした状態で、禁煙を開始しました。
    あとは、タバコの残りやライターがあれば、絶対に吸ってしまうので、タバコのストックを極限までなくしておく、ライターも最後の1本以外は全部捨てておくなど、やめるタイミングでスパッと止められるように、在庫を減らしておくことも必要です。
    それ以外では、いまだと禁煙パッチとか禁煙ガムなど、ニコチン中毒へ対処するのに便利な医薬品もありますので、事前に禁煙外来に行って処方して貰うか個人で買っておくというのも、事前準備にあたると思います。

     

  2. タイミング:
    禁煙を始めてから1年経過するまでは、周期的にタバコを吸いたい強い衝動に駆られます。
    その際にぐっと我慢するときのテクニックの1つとして、今まで何日・何ヶ月我慢して来たかを意識するというのは、私の場合非常に効果的でした。ただ、強い衝動に駆られているときに、経過に数を瞬時に意識するためには、いまが何日目・何ヶ月目なのかが計算しやすくなくてはなりません。
    ですので、1月1日とか、4月1日など、日付だけではなく、開始月も含めて、禁煙を開始してからどのくらい経過したかがすぐに分かるタイミングで始めることを強くお勧めします。
    失敗してしまうことを考えれば、禁煙開始を1~2ヶ月遅らせたところで大したことは無いと思います(肺がんなど命に関わる病気の時以外)。ちなみに、私は30歳になる年の1月1日に開始しました。

  3. 衝動対策:
    先にも書きましたが、禁煙を始めると、周期的に強い喫煙衝動に見舞われます。個人的な経験では、1日目、3日目、1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年と経過するごとに徐々に喫煙衝動の頻度と強さは弱まっていきました。逆を言うと、禁煙を始めてから1年経つまでは油断大敵です。
    多くの場合、1回の衝動は5~15分も経てば過ぎ去りますが、その間をいかに凌ぐかがポイントになります。喫煙衝動に駆られているときにタバコが吸える状況にあれば、まず間違いなく負けます。また、頭が喫煙衝動に支配されていれば、目の前にタバコやライターが無くても買いに行ってしまうことも考えられます。
    ので、喫煙衝動に駆られたら、衝動が過ぎ去るまで一定期間タバコを吸えなく(買えなく)なるような何かしらの動作をするのがお勧めです。人前でやりにくいことだと、仕事中だとか、会食中だと実践できないので、いくつかパターンを持っておくことをお勧めします。タバコを視界に入れない、話題に出さない、考えないというのがポイントです。
    私の場合は、ガムを噛む、同僚と雑談する、散歩する、落書きをする(下手くそだけど、手元のノートとかに車や好きな動物などの絵を描いてました)、ドライブに行く、などですね。(ストレスを感じることはやめた方が良いです)

  4. モチベーション:

    あとは、これは可能なら・・・になりますが、より強い動機があった方が禁煙の成功率は上がると思います。何のために禁煙したいのか?が弱いと、上記の強い喫煙衝動が来たときに抗いきれない可能性が高くなります。

    では、どんな動機が良いのかというと、こればかりは個人ごとに異なるので、何とも言えませんが、私、および、私の周囲で禁煙に成功した人たちに聞いた動機を並べてみたいと思います。

    ・タバコの吸いすぎで肺気腫になった。もう二度とあんな苦しい思いはしたくない。(呼吸ができないんですよね。。。喘息の発作にも似てますが、ちょっと違います。死にそうにつらいです。)

    ・肺がんになった。死ぬことを考えたら、やめざるを得なかった。(こうならない内に禁煙することをお勧めします・・・)

    ・タバコが嫌いな女性に告白したい。(本人にとってはとても重要なことだったようです)

    ・幼稚園の娘に「パパお口臭い。息をしないで。」と言われた。(これは、ショックですよね・・・)

    ・体がすこぶるだるく感じるようになった。(肉体労働系の)仕事が一日持たない。夕方になると息切れして、仕事にならなくなった。(仕事をなくしかねない危機的状況だったようです)

 

さて、だいぶ長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか? これを読んだどなたかの禁煙チャレンジの参考になれば、幸いです。

書感:顔ニモマケズ(凄いなぁ・・・皆さん、強いです)

書籍「顔ニモマケズ」を読みました。 

顔ニモマケズ ―どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語

顔ニモマケズ ―どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語

  • 作者:水野 敬也
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

顔を中心に見た目に問題を抱える9人の方の半生についてインタビューした内容をまとめた書籍です。

 

どの方も見た目に相応のインパクトがあり、子供の頃に虐められた方や、途中、引きこもりになってしまわれた方もいらっしゃり、それぞれの苦悩をどのように乗り越えて、もしくは折り合いを付けて、今を生きていられるかを話されています。

それぞれの方がどのような病気で、症状なのか、どのような半生を送られてきたかについては、ぜひ書籍をご覧になっていただきたいのですが、お名前と病名だけ列記しておきます(検索すれば見つかる人もいるので)。

 

この本を読んで「凄いなぁ・・・」と思ったのが、掲載された全員がとても前向きで明るいことです。多くの方は、絶望に駆られた時期があったが、そこから勇気を出して一歩を踏み出し、(文字通り)外に出ていったということ。中には、たいして悩まれていないという方もいましたが、その方はその方でエピソードを読むと凄い努力の人なので、悩みにつながりそうなことを努力で超克されてきたのだと思います。一方で、いまも恐怖があるという人もいますが、その方もTVに出られたり、劇の講演をされたりと、積極的に外に打って出ておられます。

見た目にインパクトがあるので、様々な人の視線に晒される状況にもかかわらず、積極的に外に出て「そうした見た目があるからこそ果たせる自分なりの使命があるのでは?」と、人の役に立とうという人が多いのも印象的です。

また、どの方も見た目の問題は抱えていますが、いずれも魅力的な個性を持たれた方です。見た目というハンデキャップを超える努力をしたり、うまく回避する方法を見つけたりと、粘り強く取り組まれて来たということも、人間的な強さにつながっているのではないでしょうか。途中、挫けたことがあるということも、他者の痛みに寄り添える、人としての温かみにつながるのだと思います。

どの方も現代の医学では治すことはできず、逃げ場がない状況の中で、与えられた状況を受け入れたり、折り合いを付けたり(いい意味でのあきらめ)、それをバネにして努力されて、強い自分を手に入れています。それは素直に凄いことだと、尊敬してしまいます。

と同時に、皆さんのエピソードの中に出てくる心無いことを言われたり、ジロジロと見られてしまう経験を読むと、自分も同じことを言わないまでも思ってはしまいそうだし、つい目が行ってしまうことはありそうだと、反省してしまいました。

 

それはさておき、インタビュアーである著者の水野氏が以下のように書かれています。

人とは違う見た目に悩み抜いてきた人たちがつかんだ「幸せに生きるための方法」は、見た目というジャンルを超えて多くの人の悩みを解消する普遍性を持っており、 

本当にその通りだと思います。皆さんのエピソードで出てきた悩みを克服するキーワードのいくつかは、「人とのつながり」、「外に出ること」、「好きなこと(夢中になれること)を見つけること」です。

新しい「人とのつながり」を持つと、心無い人だけではなく、温かい人とも出会える。見た目の影響は受けるけれど、内面を知ってくれる人はいるし、そうした人との出会いは人生を明るい温かいものにしてくれるのだな、と感じました。そうした出会いの中では、自分を変えるきっかけをくれる人や、自分を支えてくれる大切な人を見つけることもできる、と。

「外に出ること」は、物理的に外に出るという意味もありますが、いま現在、自分がいるコミュニティ(学校や職場、地域、人間関係など)から外に出るということも含まれます。そうして今まで関わりがなかった新しい人たちと出会うことで自分の世界が拡がる、また、自分を受け入れてくれる場所が見つかるということもあると思います。と同時に、自分が居ることができる場所を自分で見つける・作るという努力も同時にされているのだな・・・と思いました。

どんなことでも良いので「好きなことを見つける」ということは、つらい時に自分を支える力にもなるし、好きなことを通じて「新しい人との出会い」や「外に出ること」にもつながるので、悩みがある人こそ、好きなこと、夢中になれることを見つけるというのは大事なんだな・・・と思いました。つらい状況が続くと、なかなか新しいことに取り組もうという意欲も湧かないかと思いますが、どんなことでも良いので、好きなことを見つけることができれば、そこから這い出すきっかけになりえるのではないかと思います。(私自身の経験でも、好きなことがあることが救いになってきたと実感しています)

 

他にもいろいろ思うことが多かった書籍ですが、私にはこの書籍に出てきた人たちの凄さや魅力を伝えることは全然できないので、少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本書を読んでみてください。

いろいろ感じて貰えたらと思います。

書感:ザ・ビジョン(やる気満ちてきたー!)

書籍「ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか(原題:FULL STEAM A HEAD - Unleash the Power of Vision in Your Company and Your Life)」を久々に読み返しました。 

ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか

ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか

 

優れたビジョンが持つ力・意義と、その作り方、実現の仕方が、とても分かりやすい(そして、自然な)ストーリーで書かれた良書です。

 

本書によると、説得力があるビジョンを生み出すための基本要素には、「有意義な目的」、「明確な価値観」、「未来のイメージ」の三つがあると言います。

  • 「有意義な目的」は、組織が何のために存在するかや、個人が何のために生きるのかという問いに答えるものです。例として、イソップ童話の「3人のレンガ職人」の話に似た逸話などを書いています。
  • 「明確な価値観」は、目的の実現の為に選択する判断や行動の指針や基準となる信念のことです。例として、製薬会社メルクのミッションなどを挙げています。
  • 「未来のイメージ」は、目的や価値観に沿って行動した暁に実現される世界や組織、個人の最終結果を表現したものです。例として、マーティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」で始まる演説が挙げられています。目をつぶればまざまざと思い浮かべられるような、鮮烈なイメージです。

 

そして、ビジョンはただ作れば良いものではなく、実現できなければ意味がありません。ビジョンを現実のものとするためのポイントとして、以下の3点を挙げています。

  • ビジョンを創造するプロセス:ビジョンはただリーダー(社長など)が、一方的に作って伝達するだけでは力を持たない。関連する人々の意見を聞き、議論することを通じて、一緒に作り上げることが、皆が納得し共感するビジョンを作るための重要なポイントである。
  • ビジョンを伝えるプロセス:ビジョンづくりは一過性のものではなく、絶えずビジョンについて話し合っていく必要がある。日々の出来事を「ビジョン」を通じて読み解く習慣を奨励することが重要なポイントである。
  • ビジョンを実践していくプロセス:ビジョンは放っておいても実現されない為、ビジョンに基づいた行動を促進するための構造(習慣や行動パターンなど)を構築・導入することが重要なポイントである。

 そして、ビジョンという未来像だけを見るのではなく、いま目の前にある現実を直視し、「あらゆる瞬間にビジョンを実践する」ことが大切であること、「行動」する「勇気」が大切であることが書かれています。

 

上記に簡単にまとめましたが、実際の書籍の中では、それぞれの良い例、悪い例ともに具体的に挙げながら、個々の要素の定義ももっと詳しく書かれています。

そして、それらの内容が、思いもよらぬ離婚からシングルマザーとして実社会に出ることになったエリー(主人公)の経験を通じて、ひとつひとつ発見、実践されていく中で、ビジョンがいかに会社や組織、家族、さらには個人の人生にとって大きな力を持つか、そのようなビジョンに必要な要素は何か? どうやってそのようなビジョンを作り、実現していくのか? が、順を追って書かれています。

自然なお話し(ストーリー)として書かれているので、全然教科書臭くなく、単なる小説としても読めるようになっています。

また、個人的には、本文中にもたびたび出てくる「Full Steam A Head (全速前進!)」という言葉の響きが好きです。ビジョンに向かって一丸となって全力を尽くし、全速力で進んでいく様子が、それこそまざまざと目に浮かぶようで、「ビジョンがもたらす変革のパワーを象徴するのにぴったりの表現」だと思います。

 

この書籍は、10年以上前に、会社で指定された研修を受講した際に配られたのですが、これまで何度も読み返してきました。読み返すたびに、すごくパワーを貰える素晴らしい本です。

是非、一人でも多くの人に読んで貰えたら、と思っています。

書感:だれもわかってくれない(なるほど!でも、あともう一歩・・・)

書籍「だれもわかってくれない  - あなたはなぜ誤解されるのか」を読みました。 

 人は、自分が周囲からどのように思われているのかを理解していないし、自分が伝えたいと思ったことを適切に伝えられていない。それは何故なのか? どうしたら自分のことを正しく(自分が伝えたいように)伝えることができるのか? が書かれた書籍です。著者の言葉によると「自分が本当に意図することを相手に正確に伝えること」について書かれた書籍です。

 

冒頭の「ルルレモン・アスレティカ」創業者の発言ミスに始まり、様々な例を通して、人がいかに自分のことを正しく相手に伝えるのが難しいのか、また、そうした誤解がなぜ起きるのかについてのメカニズムを解説しています。そして、その誤解を解くための対処方法についても触れられています。

カニズムの詳細は、実際に書籍を読んでいただきたいのですが、ポイントを以下に記載します。

  1. 人を認識するプロセス
    人を認識するプロセスは以下の2段階に分かれている
    フェーズ1自動的に行われ、バイアスに満ちている段階
    フェーズ2努力を要し、より正確に認識できる段階
  2. バイアスを作るおもな色メガネ
    バイアスを作るおもな色メガネには、以下の3種類がある
    信用レンズ:相手が信用できる(味方である)と感じているか、信用できない(敵である)と感じているか?
    パワーレンズ:相手より自分が強い立場にあると感じているか、弱い立場にあると感じているか?
    エゴレンズ:相手より自分が優位になるようにものごとを見ようとする
  3. 認識する側のパーソナリティが、人の見方にどんな影響を与えるか
    他人をどう認識するかに影響を与える、認識する側のパーソナリティのタイプには以下の2×3のタイプがある
    ものごとの捉え方の2つのタイプ(レンズ)
    ・促進レンズ:これから先もっと良くするにはどうすればいいかを優先して考える。「リスクを冒さなければ何も得られない」と考える
    ・予防レンズ:いま手にしているものを失わないためにはどうすればいいかを優先して考える。「何ごとにも念には念を入れて」と考える
    対人関係の3つのタイプ(親と子のつながり=愛着のタイプ)
    ・安定型の愛着:親の愛着が安定していて、いつも変わらず愛されていると感じて育った。人間関係も率直で安定したものを築きやすい
    ・不安型の愛着:親の愛情は感じられないわけではないけれど、安定していない、あてにならないと感じて育った。依存心が強く、まとわりつく傾向がある
    ・回避型の愛着:親の愛情が常に感じられずに育った。人と近しくなることが苦手で、完全には信用できない傾向がある

 それぞれのレンズがどのように働くかが具体例を交えて説明されていて、自分が思っている通りに相手に受け止めてもらえない理由が良く分かります。

 

では、肝心の一度与えてしまった不本意な認識をどうやって変えさせるかについてですが、こちらは文量も少なく、あまり納得感はなかったというか、書いてあることは分かるけれど、それを実践するのが難しいのでは?と思いました。

ポイントは以下の3つです。

  • たくさん証拠を示す
  • 相手が意見を修正したくなるようにしむける(相手の平等・公正でいたいという意識に働きかける、相手がコントロール感を失っている時を利用する、相手の成功にとって欠かせない存在になる)
  • こちらに非があるときは謝る

 最後にまとめとして、相手と自分自身を正しく理解しましょうということが書かれています。まったくその通りですが、それが難しいんですよね・・・

 

 ともあれ、最後は消化不良だったのですが、それまでの誤解が産まれるメカニズムについては良く整理されていて分かりやすい書籍だと思います。私自身は、結構な気づきがありました。

是非、興味を持たれた方は一読してみてください。(「はじめに」だけ読んでも面白いですよ)

書感:日本人の勝算(とても納得!)

デービッド・アトキンソン氏の書籍「日本人の勝算」を読みました。 

 日本経済が長期に渡り低迷している原因と対応策がロジカルに書かれていて、納得感が高い書籍です。

 

端的に言えば、原因は「日本が生産性向上に十分な努力してこなかったこと、これから人口が急速に減少していくことを考えると、生産性を他の先進国以上に引き上げていかないと国が衰退する」というものです。

人口が増加する国、かつ、平均年齢が若い国であれば、放っておいても経済成長は達成できるが、急速な人口減少と高齢化を同時に迎える日本では、よほど生産性を向上させない限り経済縮退は免れえない。また、世界に類を見ない超高齢化社会を迎える日本では、経済が縮退すれば、増加する一方の社会保障費を賄うことと全世界で断トツ一位の国の借金の返済ができず、国が破綻するとも警告しています。

しかし、日本の労働者の質は世界第4位と、先進国トップレベルの優れた労働者が揃っている国であり、技術力も高く、インフラも整備されている国なので、必要とされる生産性の向上は十分達成可能であるとも主張しています。

日本の生産性が低い最大の理由は、規模が小さい企業が多すぎることであると、数々の論文を引いて説明しています。そして、その対策として、多くの中小企業の統廃合を通じて規模を大きくし、生産性を向上させられない経営者を退場させる必要があること、それを強制させる手段として、継続的な(でも、急激すぎない)最低賃金の引上げが効果的であることを、諸外国の例を挙げて提示しています。

それ以外にも、低価格競争から高付加価値競争への転換、輸出の拡大、(若者の教育の改善ではなく)生涯教育の必要性など、日本経済が沈没するのを回避するための処方箋が示されています。

どれも論理的で分かりやすい内容でありましたし、私個人の周りにいた生産性の低い勉強しようとしない中高年社員や、生産性向上のための施策や改善活動を本気でやらない経営陣(&会社の業績低迷)を考えると、納得せざるを得ませんでした。

 

ただ、この書籍の主張の大前提となる生産性の定義が記載されていないため、初めの内は記載されている内容にいまいちピンときませんでした。この書籍における生産性は、1.労働生産性、2.資本生産性、3.全要素生産性(1と2以外による生産性≒業務プロセスやルールなどの会社の仕組み)の3つを合わせたものとなるようです。

また、初めのうちは、私の頭の中で、経済成長と生産性の向上もごっちゃになっていて、それが理解の妨げにもなっていました。経済成長の中身は、a.労働の投入量(労働人口×労働時間=総労働時間)、b.資本の蓄積(ここでの資本は、労働者一人に与えられる資本≒道具や機械などの設備)、c.全要素生産性(ここでは前記の1~3全部のこと)に分けられるのですが、これが書かれているのが本書の終盤なので、しっかり理解できるのに時間がかかってしまいました。

 

あと、この書籍を読んで、目からウロコと言うか、ちゃんと認識をしていなかったこととして、日本が世界第3位のGDP総額を維持しているのは、日本が先進国第2位の人口大国(約1.3億人)だからというものです(第1位はアメリカで3.2憶人、第3位はドイツで8,200万人)。

アジアには、中国やインドなどの人口超大国があり、他にもインドネシアなど人口が多い国がある為、日本が人口大国であるという認識が欠如していました。

 

ともあれ、日本の経営者の無能っぷりや企業規模と生産性の関係、多くの勉強をしない社会人への(職種転換を含む職業再)教育の必要性など、日本が低迷している原因と対策を明快に記載している本書は、読むに値する一書だと思います。

もし興味を持たれたら、ぜひ一読することをお勧めします。