書感:チェンジ・ザ・ルール(すべてのITコンサル&SIerは、この本を読むべき)

書籍『チェンジ・ザ・ルール - なぜ、出せるはずの利益が出ないのか』を読み返しました。

 

エリヤフ・ゴールドラット博士による「Theory of Constraints (以後、TOC):制約条件の理論」に基づいたビジネス小説第3弾です。

 

今回は、前回までの製造業の話とは変わって、IT企業の話になっています。成長著しいERP企業の社長のスコット氏が、同企業の成長を持続させるために悪戦苦闘する話です。

 

同社は、大企業向けERPソフトの大手企業ですが、同社を含め、業界全体であまりに急に成長したため、顧客候補となる大手企業の残りが少なくなり、このままでは市場が枯渇し、成長を維持することができないという事態に直面します。

同時に、顧客の要望に合わせて様々な機能をERPソフトに追加していった結果、あまりに複雑になり、ERPの導入にも、ちょっとした機能の追加や改善にも、ものすごく時間がかかるようになってしまいました。

更には、超大手顧客からは、多額の投資をして同社のERP製品を導入したのは良いけど、「利益がどのくらい増えるのか」と問われ、困惑する羽目になります。この顧客から「同社ERPを導入したのは失敗だった」と世間に宣伝されてしまっては、会社の存続に関わるので、何としても、導入&利用費用に見合った以上に、顧客企業の利益増加に貢献できることを証明しなければならない・・・

 

と、このような状況からスタートし、ERPベンダー、システムインテグレーター(※)、顧客企業、それぞれに次々と起こる問題を目まぐるしく解決していくという流れです。

今回は、主人公の家族の話は出てきませんが、ソフトウェアベンダー、システムインテグレーター、顧客企業と、ITシステムに関わる主要関係者がでてきて、ITシステムにまつわる本質的な問題を様々な角度から見ることができます。

※.ERPソフトを顧客企業に導入する作業を行う企業。大型の機械で言えば、顧客企業に機械を運んで設置して必要な設定を行ってくれる企業に当たります。ERPのようなITシステムの場合、ソフトの開発会社と導入会社は分かれていることが一般的です。

 

ちなみに、このERPのモデルとなってる企業って、某ドイツのS〇P社なんですかね? 導入モジュールとかユーザー数ごとの課金体系とか、どう考えてもS〇P社にしか思えないのですが・・・

 

ともあれ、本書では、上記の物語を通じて、ITを導入して効率が良くなったハズなのに、導入企業の利益向上に全然貢献していないという、IT屋さんが苦手なこの問題をドストレートに問題提起し、答えも用意しています。

20年近く前に出版された書籍ですが、いまだに(少なくとも日本の)SIの現場では、この問題を全然解決できていないと感じています。

少なくとも、私の周りにいた多くのITコンサル、プロジェクトマネージャー、SE、プログラマーは、顧客の利益どころか、メリットすら考えてないのでは?と、感じることがしばしばでした。(まぁ、ITの世界も変化が早くてキャッチアップは大変だし、でもベテランPM&SEは新しいことやりたがらないし、お客様はお客様で、ITのことを全然わかってなくて話はかみ合わないことも多いし、ころころ意見が変わったり、意思決定してくれなかったり、できあがったのを見てからじゃないと判断できないと言って、仕方ないから分かる範囲で作るとやっぱり作り直しになるし・・・はっ! いかんいかん、闇の世界に引きずり込まれるところだった・・・)

 

ともあれ、では、なぜITを導入して効率があがったハズなのに、利益が増えないのか?なんですが、ポイントは以下の通りです。

  1. 今までと同じ作業をITで省力化するだけでは効果がでない
    紙と鉛筆で手作業で情報を整理していた時代であれば、それを電子化するだけで1/10とか1/1000とかに作業時間が短縮されたかもしれません。そもそも手作業では大変過ぎて&正確に実施できなくて諦めていたことを実現できるようになったことも多いでしょう。
    けれども、一度でもIT化していることについては、システム刷新をする際に、前回と同じ内容であれば、業務の改善にはつながりません。
    また、通常は、ITで担当者レベルの作業を効率化したからと言って、社員を削減することは稀です(非正規社員やパートナー企業の人員は減るかもしれませんが・・・)ので、人件費も減らないことが多いです。←実際、私があるシステムを作って導入した際に、これまでの作業が1/10の時間で出来るようになったことがありましたが、一人も人員削減されなかった経験があります。それまで同作業を担当していた社員の一人は、浮いた9割の時間を競馬の予想にあてていました・・・(苦笑)
    ITの効果は、IT化することによって、それまでできなかった何らかの制約を取り払うことで発揮されます。逆を言うと、そこにフォーカスしないと、ITシステムを導入したり、新しくしても、大きな効果は期待できません。(そして、どうやって利益を向上させるか?という観点でフォーカスしないと、利益向上にはつながりません)
    もちろん、より高性能なシステムにしてさくさく動くようになれば、システムを利用する人の作業効率は少しは上がると思いますが、大幅な人員削減につながらない限り、利益貢献という観点ではほぼ効果ゼロです(あまりに酷いITのせいで会社を辞める人が続出している様なら、それを止める効果はあるかも知れませんが・・・)

  2. IT導入前に決まったルールを変えていない
    企業のルールやプロセスは、基本的に、プロセスやルールを決める際の状況:業務内容とその時に使えるツールや人のスキルなどに依存して出来あがったと考えられます。
    その為、ITシステムを導入して、できることが変わるのであれば、合わせて、プロセスやルールも変えないと、ITシステムの真の力を引き出す(中二っぽい)ことはできません。
    その具体例を、本書ではいくつも挙げています。また、どのようにルールチェンジをするか?というところで、1冊目、2冊目で説明していたTOCが活用されています。

 

とまぁ、ITシステムを導入するなら、それまでのルールやプロセスも変えなきゃダメよ。という当たり前と言えば当たり前の話なんですが、ホントにこれができないんですよね。現場では。

プロセスやルールを変えるには、関係するプロセス全体を見渡せる人とそれを変える権限がある人が、しっかり理解して関与しないといけないのですが、多くの日本企業では、現場の声が大きい人が喚いて(笑)モノゴトが決まっていくので、これまでと同じものを高いお金をかけて作り直すだけになりがちです。

あと、何かを変えて失敗したくないので、とにかく保守的にノーリスクになるようにしたがる傾向も強いです。

まぁ、あまりにドラスティックに変えるのは大変だし、失敗したらどうしようと怖くなるのは分かるのですが、これまでホントに困っていたことを変えるために新しいシステムで決めたキーコンセプトすら亡き者にするのは、ホントに止めていただきたい。(そのくせ、導入後に効果がないと文句を言うのはもっとやめて欲しい)

 

さてはて、近年は、ITを始めたとしたテクノロジーで何ができるか分からない&時間やお金を多大に掛けてITを導入しても効果がでるか分からないということが多いので、ITを細分化して、小さくトライ&エラーをしましょうというのがトレンドなんですが、この書籍で書かれているチェンジルールの話や、会社全体を俯瞰したうえで、そのシステムで何を狙うのか?=目的・目標が定まっていないで、トライ&エラーしても、何をトライして、何がエラーだったのかが分からない、意味不明なプロジェクトになるので、気を付けましょう。

 

ともあれ、ITシステムの開発&導入側の人はもちろん、利用者側の人も、ITが何のためにあって、そのポテンシャルを引き出すにはどうすれば良いのか、を理解するために、当書籍をぜひ読んで欲しいと思います。

 

当シリーズの第四弾は、「プロジェクトマネジメントがなぜ失敗するか」がテーマです。ITに限らず、ありとあらゆるプロジェクトの問題を解決するための手法が解説されているので、次作についても多くの人に興味を持って貰えたらなぁ・・・と、思っています(まぁ、この過疎ブログでは、ほとんど効果ないでしょうが)。

 

ではまた。

書感:ザ・ゴール2 思考プロセス - It's Not Luck(理論は簡単? ⇒ 実践は難しい ⇒ 結果は大きい!)

書籍『ザ・ゴール2 思考プロセス - It's Not Luck』を久々に読み直しました。

 

この書籍は、前作のザ・ゴールと同様に「Theory of Constraints (以後、TOC):制約条件の理論」に基づいたビジネス小説です。

 

本作は前作の10年後という設定で、前作では見事に工場の業績を回復させたアレックス・ロゴ氏が、数年前に買収した3社を担当する多角的事業を担当する副社長として、大赤字に転落していた各社の業績改善に取り組んでいるところから始まります。

TOCによる生産管理手法を駆使して各社の業績改善に取り組んでいて、黒字化は達成するなど少しずつ手ごたえを感じ始めていますが、そこに本体企業の業績改善の為に3社を半年以内に売却せよという取締役会の決定がなされます。

 

業績改善に取り組んでいるとはいえ、まだまだ途上の企業達は、そのままでは買収したときよりも大幅に低い価格で売り払われ、せっかく取り組み始めた事業改革も止められ、コストカットの名のもとに担当させている部下たちもクビを切られかねません。また、本人も、高額で買収した企業を二束三文で売り払ったダメ事業部長として、今後のキャリアを絶たれかねません。

3社はすべて製造業ではありますが、印刷業、化粧品製造、工場の製造装置の製作と、それぞれ異なる業界で事業慣習も異なるし、上記の状況のため、新規の投資は全て凍結です。業績改善をするには、生産性の改善にとどまらず、大幅に売り上げを高める必要があります。それも新規投資を伴わず、にです。

そして、このシリーズの面白いところでもありますが、今回もロゴ氏の家族の問題が取り上げられます。今回は奥さんではなく子供たちが直面する問題をお父さんが解決の支援をするという仕立てですが、失敗すれば子供たちとの関係も壊れかねないというハラハラを伴う内容となっています。また、お年頃になってきた子供たちとの関係改善も兼ねています(身につまされるなぁ・・・)。

 

そんなこんなで、多種多様な問題をどうやってスムースに解決するか?というのが本書のテーマで、その為の思考プロセスを紹介しています。サブテーマとしてはマーケティングということになるかと思います。


ところで、前作の最後に示されたTOCの基本プロセスは、
 A.何を変えればよいか? (What to change?)
 B.何に変えればよいか? (What to change to?)
 C.どのように変えればよいか? (How to cause the change?)
の3ステップでしたが、これだけだと抽象的過ぎて、実際の問題を前にしては、何をどうして良いかが分からないと思います。

 

そこで、上記の3ステップを、どの様な問題に対しても実践できるようにする具体的な手法=思考プロセスが、本を通じて紹介されています。
思考プロセスには、以下の5ステップ(手法)があります。
(必要な部分だけつまみ食いすることも可能ですが、全部使うと効果を最大限に発揮できます)

 

  1. 現状問題構造ツリー (Current Reality Tree)
    問題を解決するにあたって「何を変えれば最大の結果が得られるか」(=多くの問題を一気に解決するコアの問題)を明確にするための手法。
    現状の問題点(好ましくない結果:Undesirable Effects (UDE))を列挙し、それらの因果関係を図示することで、多くのUDEの解消につながるコアとなる問題を浮き上がらせます。非常に複雑な問題だったとしても、コアの問題は、たいてい1つか2つとなると考えられます。
    上記のステップAを特定するために使います。

  2. 対立解消図 (Cloud)
    あちらを立てればこちらが立たず、となるコンフリクト(対立)を解消するするための図。
    対立点と各対立点の目的、さらに上位の目的までたどり、両対立点の共通の目的を見つけることと、それらの関係のいずれかを解消するようなソリューションをを検討します。多くの場合、各要素間の関係の前提を見直し、広い視野で検討することになります。
    対立点を明確にした上で、それを解消するソリューションを見つけると、コンフリクトが雲の様に消えることから、英語版では「雲(cloud)」と表記されます。
    上記のステップBを見つけるために使います。

  3. 未来問題構造ツリー (Future Reality Tree)
    対立解消図を使って見つけた問題解決策を実行したらどうなるかを検証する為の手法です。
    根本的な問題が解消した状態で、現状問題構造ツリーがどう変化するのかを示し、新たな問題が発生しないかを検証します。
    つまり、対立解消図で考案したソリューションにほころびがないかを確認する作業になります。
    上記のステップBの一部となります。
    →ダメだった場合は、ステップ1やステップ2に戻ってやり直します。

  4. 前提条件ツリー (Prerequisite Tree)
    「どのように変えればよいか」を考えるための第一歩で、目標を達成する仮定で発生する障害(前提条件)とそれを克服する中間目標を検討します。
    「ステップ2、3」で定めた「あるべき姿」から出発して「この状態が成り立つにはどのような障害が考えられ、それを避けるにはどのような前提条件が必要か?」ということを考えていきます。その前提条件に対しても、同様にどのような障害があるかを考えていくことで、ゴールから逆算でやるべきことが展開されていきます。
    上記のステップCの一部になります。

  5. 移行ツリー (Transition Tree)
    前提条件ツリーで表した各中間目標地点を達成するのに必要なアクションを洗い出していきます。
    これは、詳細実行計画であり、上記のステップCの一部にあたります。

 

上記の様に文章で要点だけを書いても何が何だか分からないと思いますが、本書の中では、それぞれ(小説内の)実例を図示しながらステップ by ステップで実践するところが描かれているので、ぜひ読んでみていただきたいと思います。


あと、マーケティングについても、上記を活用することで新たな設備投資などを行わずに、大きな効果が発揮する様子が描かれています。

残念ながら、私はマーケティングについて実践する機会がなく経験がないのですが、考え方としては理解できます。

企業が販売する製品やサービスは、顧客の問題・課題を解消したり、目的・ニーズを満たすために購入されるわけですが、多くの場合、売る側はそれを明確に認識できていません。

そこで、顧客の本当の問題・課題を現状問題構造ツリーで分析し、コア問題を解消する売り方を考案することができれば、製品やサービスそのものを大きく変えることなく、より高く売ったり、より多くの顧客に売ることができるというものです。

 

本書の中では、以下のような例が挙げられています。

  • 包装用紙納品のリードタイムを短くする代わりに、契約のロットを大きくする+キャンセルは2週間前までOKとして、顧客の包装用紙の無駄をなくす(マーケティングの都合でデザインを変えると、古いデザインの包装用紙は全部無駄になる&頻繁にそうした廃棄が発生していた)
  • 売店に在庫を持って貰うのではなく、一定の売り場面積を確保してくれたら在庫はメーカー側持ちとして、売れた分だけフィーを払って在庫を補充する形式(富山の薬売り方式)=流通在庫を減らして新商品発売時の型落ち商品のたたき売りを少なくする(小売店は在庫を抱えないで済むのでキャッシュフロー楽になる)+毎日売れた分を報告してもらうことで、生産計画に正確な需要を反映することで過剰在庫も欠品も防

BtoBとBtoCでは異なると思いますが、少なくともBtoBには適用できそうな気がします。


ともあれ、この思考プロセスは、用途を限定していないので、どの様な問題であっても適用できるそうです。

その証拠?として、子供たちの友人関係の問題や、父親の車を借りたい息子と貸したくない父親(主人公)のコンフリクト、主人公の次の転職先の検討など、多岐に渡る問題に適用する様子が描かれています。

 

私自身、ステップ1~3まではたびたび仕事で使って、成果も出せています。

が、ステップ4、5については、計画を立てるまでは良いのですが、実行段階で挫けることも多いので、検討の深さが足りないのか、何か見逃している問題があるのか・・・
うまく行ったこともあるので、全然使えないということもないと思うのですが、問題が大きいと自分の管轄外の人たちを巻き込むことになるので、そこが課題な気がします。

プライベートなことだと、ステップ2で問題を解消するアイデアすら出てこないことも・・・うーん。。。(たぶん、感情的になって冷静に考えることができないからなんでしょうが、難しいですね)


ともあれ、実践するのは難しいですが、この思考プロセスは有用な手法なので、学ぶ価値はあると思います(うまくできないんだよねと、書いて置いてなんですが)。

ということで、もし興味を持たれた方がいたら、ぜひ、読んでみてください。

 

ではでは。

書感:ザ・ゴール(制約に合わせる! 直感に反するかもしれませんが、これがうまく行くんです)

書籍『ザ・ゴール』を久々に読み直しました。

 

この書籍は、「Theory of Constraints (以後、TOC):制約条件の理論」に基づいたビジネス小説です。

1984年にアメリカで発刊され大ヒットしたにも関わらず、日本で出版されると世界経済が破滅してしまう?!と筆者が危惧し、日本での出版が15年以上許可されなかったという逸話がある書籍なんだとか。TOCに基づくこのシリーズは、複数冊出版されていて、この書籍はその第一弾です。TOCの基本部分と工場での生産管理の改善が、題材として取り上げられています。

アメリカで原書が出版されたのが1984年で、日本語版が出版されたのが2001年と、古い本なのですが、いま読んでも面白いし、いまだにこの書籍で取り上げられているような状況というのはそこかしこであるのではないかと思います。

 

小説の舞台はアメリカのある製造業の工場で、6ヶ月前に工場長に就任したアレックス・ロゴ氏が、「あと3ヶ月で業績改善しなければ工場を閉鎖する」と急に通達され、必死になって業績を回復していくという内容です。

その工場では、生産性が高い最新の製造装置を導入したりもしていましたが、恒常的に出荷遅れと赤字が続いていました。新たな設備投資も人の採用もできない中、どうやって業績を回復させればよいのか? たまたま再会した大学時代の物理学の恩師にヒントをもらいながら、工場内の各セクションのリーダーとともに悪戦苦闘して立て直していく、、、その間には仕事ばかりで冷え切った妻との関係の改善もしていくという仕立てになっています。

 

理論的に勉強になるのもそうなんですが、単なる小説として読んでも面白いんですよね。

突然の危機から次から次へと降りかかるトラブル、一つ改善すればそれを原因とした次のトラブルが発生する、仕事に悪戦苦闘している間に家庭を顧みない夫に堪忍袋の緒が切れた?妻が突然実家に帰ってしまう、など、並行して問題が発生したり、一歩前進したかと思えば二歩後退する的に、なかななか思うようにいかずハラハラさせる展開が続きます。

最後はハッピーエンドなんですが、そこに至るまで気を許させない様に構成されているので、分厚い本なんですが飽きが来ません。

 

また、同時に、TOCの理論を1つずつ問題に対処する中で自然に理解できるように構成されてもいます。

TOCは、コンセプト自体はシンプルなんですが、恐らくそれ故に、理論やステップだけを説明されても大したことが無いように思えてしまうでしょう。そこを、小説仕立てに問題発生からその解決までの流れを疑似体験することで、この理論がどれだけ効果を発揮するか、そのパワフルさを十二分に伝えてくれています。

 

現在の大企業の生産管理では、一工場での生産だけではなく、需要予測と需要喚起(マーケティング・キャンペーン)と連動させ、かつ、サプライチェーン全体の繋がりを考慮した壮大なものになっているので、この書籍で書かれている範囲だけでは対応できない&一般的なITシステムの性能では、全てのパートを実用的な時間内ではシミュレーションできないという問題がある(相当大型のホストシステムであっても)のですが、この書籍を読めば生産管理の基本的な部分は理解できるようになると思います。

 


さて、この書籍で説明されているTOCのポイントを以下に挙げたいと思います。

前提として、工場の生産性が思うように上がらず、業績が良くない(=赤字を垂れ流している or 微々たる利益しか上がらない)、顧客から要求される納期を守れない、などの問題が発生している状況を思い浮かべてください。

また、製造工程は複数の工程から構成されていて、それぞれ製造能力(1時間あたりの製造数、など)が異なるものとします。

 

こうした場合に、TOCに従って、生産管理を改善するには、以下の5つのステップを繰り返し実行します。

 

ステップ1. 制約条件を「見つける」
 →製造工程上でボトルネックになっている工程を特定します
 →また、ボトルネックになっている原因も明らかにします
  →材料が足りないのか、頻繁に作るものが変わるからなのか、
   その工程を実施できる人が足りないのか、、、など

 

ステップ2. 制約条件をどう「活用するか」を決める
 →材料不足が原因なら、その工程の作業が滞らないように
  (=材料が途切れない様に)前工程の作業を計画する、など
  →ステップ1の工程に不良材料を投入しない様に、材料の品質検査を組み込む
  →不良品の発生や上流工程が止まることも考慮して、
   ステップ1に必要な材料全てについて一定のストックを用意しておく
   など
 →作るモノの変更(切替作業)の多さが原因なら、
  同じモノをなるべく長く作れるように計画する
 →人不足の問題ならシフトを工夫して該当作業に多くの人を割り当てる、
  採用and/or教育してその作業をできる人を増やす、など

 

ステップ3. 他の全てを[ステップ2]の決定に「従わせる」
 →ステップ2で決めた方針に従って、工場全体の他工程の計画を立て直す
  →材料不足の例で言えば、ステップ1の工程より前の作業工程では、
   ステップ2で決めた方針=ステップ1の工程の計画に合わせて
   必要な材料を必要な量を、ステップ1の作業が始まる前までに作る。
   逆に言うと、ステップ1に対しては、それ以上は作らない
   (他工程用の材料を作ることがあるなら、それは必要数作って良い)。
  →下流工程は、ステップ1の工程で出て来る材料を基に作業計画を立てる
   (ここでも不良品率は考慮する)

 

ステップ4. 制約条件の能力を「高める」
 →ステップ1~3を徹底して、
  既存のステップ1工程の能力を使い切れるようになったら、
  新たに機械を購入する、人を採用する、などをして
  制約条件となっているボトルネック工程のキャパシティを増やす

 

ステップ5. ボトルネックが解消したら、[ステップ1]に戻る
 →ステップ4でボトルネック工程の能力を向上した結果、
  製造工程内でいちばん能力低い工程ではなくなったら、
  今度は、その時点でいちばん能力が低い工程
  (それまで2番目に能力が低かった工程)をターゲットに変えて、
  ステップ1~4を行います
  →但し、これは市場の需要に対応しきれていない場合
   (=出荷をせかされている状態)の話で、
   製造した製品を出荷しきれない/売り切れない場合は、
   ボトルネックが流通側/市場側にある状態になるので、
   今度は、もっと素早く流通できるように流通改革をするか、
   もっとたくさん売れる様に営業改革をするかしないといけなくなります。
   もし、原料や材料を調達しきれなくなった場合は、
   購買側の改革をしないといけないということになります。

 

いずれにしても、一番の制約になっている工程の能力に合わせて、全ての工程の作業を従わせるということがTOCのキーポイントになります。

ちなみに、この本の主要テーマが生産管理なので工程と書いていますが、人的リソースやお金、ルールなど、どんな制約だとしても、一番の原因になっていることに合わせるということになります。

一番の制約事項を絶対条件として、その他すべてを従わせるので、「制約条件の理論」というのだと解釈しています。(個人的には、Theory of Constraintsなので「制約理論」で良いんじゃないかと思いますが・・・)

 

しかしながら、TOCに従った計画を実行する際の最大の障害になるのが、従来から存在している評価ルールとなることに触れているのが、現場あるあるで非常にうなずけるところです。

どういうことかと言うと、例えば、それまでの生産性の指標が、個々の工程の時間当たりの製造量だったとします。その場合、各工程の責任者は、いかにその工程のアイドルタイムをなくして生産量を増やすかに注力するでしょう。でも、TOCに従うのであれば、それはボトルネック工程以外ではやってはいけないことになります。

TOCに従うなら、ボトルネックの上流工程は、ボトルネック工程に合わせて製造する必要があるので、ボトルネックが必要とする分の材料を作ってしまえば、それ以上は材料を作ってはいけません。逆に下流工程は、ボトルネック工程からモノが出てこないので、作業をしたくてもできないことになります。その為、上流も下流も必然的にアイドル時間ができてしまいます。

職場で業務時間中に作業をしてはいけないと言われても、ハタからはさぼっている様に見えますから、抵抗がありますよね。。その為、評価方法を変えないと、作らなくてもよい在庫を作ることにつながってしまいます。

同様に、会計の基準が、工場から出荷した時点で工場の売上として計上するようなケースの場合は、流通/販売サイドでさばき切れない量の製品を出荷してしまうことにつながります。

 

その為、同小説の中では、このようなルールチェンジの問題にも触れています(同シリーズの3冊目で深掘りしています)。

 

人によっては、上流工程と下流工程がさぼってる様に見えるのが問題なら、上流工程も下流工程も、ボトルネック工程と全く同じ生産能力にしてしまえ良いのではないか、と思うかもしれません。ですが、それはダメなんですよね。それをやると、製造工程のどこかでトラブルが起きたときにリカバリできなくなってしまうのです(=ボトルネック工程を最大限に使えない状況になってしまう)。

ピンと来ない方は、上流、ボトルネック下流工程のそれぞれで、トラブルが起こった時をシミュレーションしてみてください(分からなければ、その時の例も本書にあるので読んでみてください)。


今どきの工場では、ボトルネックのキャパシティ(生産能力)に合わせて上流&下流工程のシフトを組むことで、単なる待ち時間は極力作らないようにしていると思いますが、ホワイトカラーだと、ムダな仕事(どう活用するかが決まっていない報告事項を増やす、とか)やルールを作り出して、企業全体の生産性を低下させるなんてことが、いまだにまかり通っている企業が多いのではないでしょうか。

 

企業の本来の目的を意識して各部門の役割を果たす。この単純なことを忘れて(もしくは最初から意識すらしないで)、自分の担当範囲だけ部分最適に走るというのは、規模の大小を問わずよく見られることだと思います。

下手をすると、部分最適どころか自分最適に仕事をさぼる(もしくは自分勝手にふるまう)輩なんかも居たりしますが、その結果、企業や部門が閉鎖、失業する可能性は考えないのでしょうね。。。

 

あと、制約に合わせるというと、一番できない工程(や人)に合わせることかと思う人もいるかもしれませんが、必ずしもそういうことではありません(そういう場合もあるかもですが)。

例えば、高性能で高機能だけど、とても高価な機械が一台あるとします(すごい優秀な人が一人いるのでもOKです)。その機械の処理能力は1ヶ月最大100万個の製品に必要な部品を作れるとしましょう(もしくは、すごい優秀な人にしかできない仕事があると考えてください)。そして、他の工程は月あたり120~150万個の生産能力があるとします。

需要は、変動はありますが、現時点の平均は月120万個だとします。この場合、この機械をもう一台買うという選択はできません(なんせ非常に高い)。

上記のようなケースの場合、機械としての能力は高いけどボトルネックになるということになります(ボトルネックを解消するために、もっと安価で低性能な機械を買い足すのはありですが、需要とのバランスを考慮して慎重に行う必要があります)。

 

ということで、なんとなく違和感がある人もいると思いますが、組織がその力を最大限に発揮して、かつ、無駄を減らすためには、
ボトルネックになっている個所の能力を最大限に引き出す工夫をするとともに、
・全体をそれに合わせることが
とても重要になります。

ボトルネック工程がある状況で、上流工程をいくら頑張っても、ボトルネック工程の前に仕掛かり在庫が溜まる一方となります。それは、あまり売れない商品を山ほど仕入れるのと一緒なんですよね。

もしくは、できる人に山ほど仕事を与えて、残業&休日出勤をさせまくって潰してしまうのと一緒です(あれ? なんかそんなような経験をさせられた記憶が・・・潰れてはないけど)。往々にして、優秀な人がボトルネックになってしまうことって多いと思うのですが、多くの組織が優秀な人を最大限に生かすように業務プロセスやルールを整備しているかと言うと、そんなことは無いですよね。困ったものです。。。

 


ともあれ、上記の5ステップを更に洗練すると、
 1.何を変えるか(現在の問題・課題の真因を特定する)
 2.何に変えるか(真因を解決するあるべき将来像を描く)
 3.どうやって変えるか(どうやって将来像に辿り着くかを計画立案~実行する)
の3ステップを繰り返すということになります。

 

ここまで抽象化してしまうと、なんだ当たり前のことじゃないか?となるのですが、これを現実の問題に当てはめようとするとホントに難しいんですよね。。。

複雑な現実の中で、核心的な問題を特定するのは困難ですし、あるべき状態がなんなのかを見つけるも至難です。さらには、(あるべき姿に到達するまでに必要な施策を)どうやって実行するかに至っては失敗するのが必然なんじゃないか、とさえ思うことが良くあります。

 

 

私自身も、これまでミドルマネージャーとして、社内のさまざまな問題(生産性とクオリティの両立&向上、人材育成、繰り返されるセキュリティ問題の根本解決、カルチャーチェンジ、など)の解決に取り組んできましたが、多くの場合、3番目の実行フェーズで阻まれてきました。

それは私自身の能力不足も大きいのですが、トップマネジメントの協力不足というのもあったと思います。経営陣は、私が指摘する1の問題課題と2の目指すべき姿には同意しつつも、3のところのバックアップは十分にはしてくれず、他部門にも影響するところで抵抗勢力に負けて撃沈するというパターンです。自分の部署は改善できて実績も上がっているのですが、他部門にも拡げようとすると抵抗にあうのですよね。。。

十分な支援をしてくれなかった(支援を引き出すことができなかった)理由は、トップマネジメントの方達から見ると、他の部門でもうまくいくイメージが湧かなかったからなのかなぁ・・・。

そんな訳で、全社レベルの問題解決を上手くできたのは、10回中1回くらいですね。ホント現実は難しいです。

 

ただ、TOCは非常にパワフルな理論であり手法なので、自分のコントロール範囲内であれば、TOCが役立つことは間違いないと実感しています。

 

ということでかなり長くなってしまいましたが、読んだことがない方で、上記テーマに少しでも興味を持たれた方は、ぜひぜひ読んでみてください。

分厚い本(本編だけで500ページ以上)ですが、面白いのであまり苦にならずに読めるのではないかと思います。

 

とは言え、実際に実践する為には、すくなくとも次の「ザ・ゴール2 思考プロセス」まで読まないと難しい(次回、取り上げる予定です)ので、ぜひ本書と合わせて読んでみてください。


ではでは。

コンサル一年目が学ぶこと(社会人一年目に読みたかった)

書籍『コンサル一年目が学ぶこと』を読みました。

 

新人時代から15年~20年経ち、各界で活躍する元コンサルタントの方たちが、新人時代に学んだことの中でいまも役に立っていること、言い換えると、職種・業界が変わっても通用し、また、リーダーや経営者の立場になっても通用していることを纏めた書籍です。

 

本書は、以下の4章で構成されています。

  1. コンサル流話す技術
  2. コンサル流思考術
  3. コンサル流デスクワーク技術
  4. プロフェッショナル・ビジネスマインド


それぞれ社会人1年生の立場で学んだことが、その時のシチュエーションとともに説明され、また、なぜ15年経っても役に立つことなのかが、分かりやすく解説されています。

重要さの軽重はあれど、いずれも大事なことばかり書かれています。逆を言うと、ある程度経験を積んだ社会人の方であれば、まったくの新規事項というのはないかもしれません。でも、それらが実際にできているかというと、なかなかちゃんとできていないこともあるよな・・・と思います。

少なくとも、私自身はできていないことがいくつもあって、反省することしきりです。そして、これまでなかなか仕事の成果があがっていないなぁと感じた周りの社員を思い浮かべると、これらの基本的なことができていなかった様に思います。


では、本書の中で特に重要だと思ったポイントを3つ挙げたいと思います。

 

1.相手の期待値を把握し、越える

1章の話す技術の中に、ビジネスをするうえでいちばん大事なものは何か?という問いに対して「相手の期待を越え続けることがビジネスの基本。そのためにはまず、相手の期待の中身を把握する必要がある」、「ビジネスというのは、突き詰めると、相手の期待を、常に超え続けていくことにほかならない。顧客や消費者の期待を超え続けていくこと。上司の期待を超え続けていくこと」とありました。

 

これ、本当にそうなんですよね。最低限、相手の期待値に達していなければ対価を貰えませんし、恐らく、期待値以上のOUTPUTを出さなければ、繰り返し仕事を貰うことは適わなくなります。

期待された内容が含まれていなければ、どれだけおまけのサービスや物品があったとしても、お客様や上司・同僚(部下も同じですね)の満足度は上がりません。

 

おいしい食事を食べに行ったのに、店の外装や内装はきれいだけれど、肝心の食事がまずかったらどうでしょう? 雰囲気を楽しみに行ったというのでもなければ、通常は満足度が非常に低くなると思います。

ただ、難しいのは、相手が期待する内容が何か?ということが、なかなか分からないということです。こればかりは、相手の方と認識を合わせるために丁寧にコミュニケーションするしかありませんが、相手の方もハッキリと言語化できるとは限らないので、簡単ではないですね。こうした場合、OUTPUTのサンプルを提示したり、作業の目的を質問してどの様なOUTPUTが必要かを確認したり、作業のアプローチや進め方を丁寧に説明してどこまでできそうかをお互い可視化する努力が必要になりそうです。

また、過剰な期待というか、自分にはできないことを期待されていることも良くあるので、そうした期待値を持たれている場合は、キチンと理由を示してお断りするか、どこまでならできるがどこからは出来ないと期待値を下げる(コントロールする)必要があります。

 

ともあれ、期待値コントロールというのは、コンサルタントに限らず、どの様な業界・職種においても、実は非常に重要なことなんだと思います。


2.仮説思考

業務改善、新規システムの構築、新しいマーケットの開拓、などなど、新しいことをやろうとしたときに重要になるのが、仮説思考となります。いずれも、現状の把握や今後どうするべきかの検討・決定、施策の実施、効果の測定などを行う必要があります。
現状調査にしても、今後どうするべきかにしても、調査を網羅的に実施したり、方法を大量に比較・検討していては、効率が悪いし、失敗したときに取り返しがつかなくなります。

その為、現時点で分かる範囲の情報から仮説を立てて、それを基に最小限の調査や実験を行って、仮説があっていれば深掘り(精度向上)を行い、間違っていれば、間違ったという情報もInputにして新しい仮説を立て(軌道修正を図り)ます。
こうした仮説→検証→フィードバックのサイクルを高速で回すことで、より早く、より正確な施策の実施につながります。これは、個人の作業レベルでも同じで、60点レベルの作業の段階で関係者(できればそのOUTPUTを受け取る人)に見せて意見を貰い、フィードバックをもとに修正することでより早く、より良いOUTPUTを作れるようになると思います。

もちろん、接客業のサービスのように、途中段階というものがない場合もありますが、これもより良いサービスやより効率よくサービスを提供できる様になるためには、仮説→検証→フィードバック(お客様の反応や業績、作業時間、などの結果)のサイクルを回すということはできると思います。

 

この仮説思考というのは、なかなかできている人も少ないと思いますし、自分もつい忘れがちなので、あらためて意識しようと思いました。


3.コミットメント

お金をもらって仕事をするプロフェッショナルとしては、コミットメント=「約束したことを必ずやり遂げてくること」は非常に重要です。
これなくして信頼は構築できませんし、そもそもお金を貰う資格もないと個人的には思っています。コミットメントしたことを実現するためには、手段は問わない(と言っても不正行為や犯罪行為はダメですが)ので、もし自分一人で出来なければ、周囲を頼ってでも実現する必要があります。

ですが、これができない人が非常に多いと感じます。また、悪い意味でコミットメントを捉えて、自分はできないのに安請け合いして、他の人にやらせるというのも違います。

自分が約束したことを、自分の責任をもって遂行するのがコミットメントなので、最初からできないと分かっていることをコミットするのは違います。困ったときに頼れる味方や仲間を作るのも、常日頃からの信頼関係構築を含めたプロフェッショナルとしての行動だと思います。


いわゆるローパフォーマーな人たちは、このプロ意識というのが希薄で、会社は〇〇してくれない、誰々が△△してくれない、などと不平不満が多い印象があります。会社や組織に問題がある場合も往々にしてあるとは思いますが、それ以前に、自分自身がプロフェッショナルとしてやるべきことをちゃんとやってないケースも多いので、個人は個人として、会社から給料を貰う分に対してプロ意識を持った仕事をしたいものです。

 

また、一人ひとりのコミットメントが達成できないと、周囲や会社全体にどのような影響がでるのか、また、お客様にどのような迷惑がかかるのかというのも意識する必要がありますね。
ひとつ一つの作業や仕事が、誰にどのように影響するかということが意識できていないと、コミットメントが弱くなったり、忘れてしまったりするのかな、、、と思います。

 

とまぁ、偉そうに書いてますが、自分自身に対する戒めとしても書いていますので、ご了承ください。

 


本書には、まだまだ多くのことが書かれていて、いずれも大事なことばかりですので、まだ若い人も、そうでない人も読む価値はあると思います。

また、とても平易に書かれていますし、冒頭に書いた通り、職種・業界が変わっても通用するスキルについて書かれているので、コンサルタント以外の人にこそ是非読んでいただきたいと思います。


それでは。

最高の体調 ACTIVE HEALTH(一部でも実践すると効果ありそう)

書籍『100の科学的メソッドと40の体験的スキルから編み出した 最高の体調 - 進化医学のアプローチで、最高のコンディションに導く』を読みました。 

 

このところ、自分の興味が「仕事の効率化」と「健康」に向いているので、それに関する読書が多いのですが、この書籍はその両方に跨るような内容になっています。

 

鬱病、肥満、散漫な集中力、慢性疲労、モチベーションの低下、不眠、弱い意志力など、一見バラバラのように見える問題も、根っこまで下りれば実は同じもの。「文明病」という考え方でその正体を暴き、科学的な根拠のもとで実践的な対処法を解説したのが本書になります。

 

本書ではまず、「進化医学」という概念を説明しています。

「進化医学(ダーウィニアン・メディスン)」とは、進化論をベースに人間の病気の正体を考えていく学問だそうで、人体の様々な器官やその働き(器官の動き方)は、人類が進化をする過程で必要があって発達・獲得されてきたものなので、その器官・働きの原因となった環境や条件を考慮すると、なぜ各病気が発症するのか、その理由や正体が分かる(もしくは探る)というものになります。

 

例えば、現代病の代表例の一つである「肥満」の場合、人類の食欲中枢が発達したのが約200万年前であり、その頃の人類は狩猟採集生活を送っていました。当時は、高カロリー(高脂肪・高糖質)な食事が生き残るうえで有利であり、その様な食事を好むように人体は進化しました。

しかしながら、近代に入って以降、急激に食糧事情が変わった為、現代のような食料が豊富な「肥満環境」に、人体は(遺伝子レベルでは)まだ適応していません(農耕生活が始まったのが、1~2万年前と言われていますし、先進国のみですが、飽食の時代と言われるようになったのは、ここ100年くらいの話でしょうし・・・)。

 

また、ストレスの対処についても同様に、人体の進化が現代の環境に追いついていないと考えられています。

脳の一部に偏桃体という部分がありますが、これは脳に備わった警戒システムで、身の回りに危険が迫ると活性化し、緊急事態に備えるように体に指令を出します。その結果、内分泌系がアドレナリン、コルチゾール、ACTHといったストレスホルモンを分泌して体を戦闘状態に切り替えるのですが、これは、ライオンやヒョウに襲われたときに瞬時に全身を興奮状態に切替え、すぐさま逃げるか戦うかのどちらかを選択するための仕組みです。そして、事態が終わればストレスホルモンは役目を終え、すみやかに体はもとに戻っていくという訳です。

つまり、人体のストレス処理系は、森やサバンナで出会う緊急の危機に対応するために進化してきたシステムなので、短期的に終わる急性のストレスを捌くのは得意ですが、現代の慢性的なストレスに立ち向かうようにはできていません

 

このように、現代における病気が、進化の過程で獲得してきた人体の仕組みとどの様に不整合があるかを考慮・解明する学問が「進化医学」となります。

 

本書では、その成果を代表的な文明病である「炎症」と「不安」の2つに対して、それぞれの対策を3つの領域に分けて解説しています。(進化医学に関連する大量の論文を読み、それぞれの対処法を学び、実践してきたものをまとめたそうです)

 

◆炎症
「炎症」とは、体がなんらかのダメージを受けたときに起きる、有害な刺激を取り除こうと免疫システムが起動し、ケガ等を修復すべく働き出したときの状態です。擦り傷ができたあとの、ジクジクと液体が染み出し、軽い痛みとともに皮膚が赤く腫れ上がっていく様子が「炎症」です。これは、体表面だけではなく、体の内部にも起きます。

 

短期の炎症反応は免疫システムの正常な動作によるものなので問題ではありませんが、長期に渡ると、血管や細胞といった周辺組織にダメージがおよび、やがて全身の機能が下がっていくことにつながります。いわば、戦争が長引いたせいで水道管や電線が破壊され、やがて国力が下がっていくのに似ています(そして、各水道や電線がつながる設備も壊れていきます)。

内臓脂肪が蓄積すると、この炎症が全身に拡がり、糖尿病、心疾患など様々な病気を引き起こすので、肥満も「炎症」カテゴリの病気の1種となります。

また、慢性の炎症は、脳の機能にもダメージを与え、鬱病を引きおこすとも言われています。これらが文明病であると言えるのは、いまも狩猟採集などで暮らす伝統的な部族には、慢性炎症に由来する病気(糖尿病、鬱病、がん、など)がほぼ存在しないからです。

 

文明病が引き起こされる原因は、以下の3つのいずれかに該当すると考えられます。

  • 多すぎる:古代には少なかったものが、現代では豊富すぎる=カロリー、糖質、など
  • 少なすぎる:古代には豊富だったものが、現代では少なすぎる=睡眠(人体に必要な平均睡眠時間は7~9時間の範囲 & 良質な睡眠が必要とされる)
  • 新しすぎる:古代には存在していなかったが、近代になって現れたトランス脂肪酸 ⇒ 肝臓の働きを乱す(新しすぎてうまく処理できず悪玉コレステロールを製造してしまう)、孤独 ⇒ タバコや肥満と同じくらい全身に炎症を起こす、デジタルデバイス ⇒ 睡眠時間を削り、過剰なコミュニケーションは人間関係の不安を増大する・・・

 

「炎症」の対策では、「1.腸」、「2.環境」、「3.ストレス」の3つに分けて解説しています。

具体的な内容は本書を読んでいただきたいのですが、なぜそれぞれの領域が炎症に影響するのか、どの様な対策をすると良いかが具体的に書かれています。

例えば、腸内環境を改善するのに、どのような食事をすると良いか、サプリメントならどの様な成分のものがお勧めなのか、とかですね。

環境(自然)に関する対策やストレスへの対抗策も具体的に書かれています。

 

◆不安
「不安」自体は古代からあったと思われますが、それらの不安は原因も対処法も「はっきりした不安」で悩む要素が少なかったと考えられます。

 

それに対して、現代の不安は「ぼんやりした不安」であり、原因も対処方法も良く分からない不安です。

「将来どうなるかが分からない(仕事や健康)」、「対処方法が分からない難しい問題(人間関係など)」、「多様な価値観(自分がやりたいことが分からない)」、などなど。

言い換えると、目的(自分は何をどうしたいのか)が分かっていない上に、対処方法(問題が大きく複雑なため、どのように対処すれば良いか)も分からないような不安となります。

 

ちなみに、不安障害は、近代化レベルと明確な相関関係があり、先進国では不安障害の発症率が8%前後なのに対し、発展途上国では不安障害の発症率は0.1%にしか過ぎないそうです。

この「不安障害」は、発症したことがない人にはイメージが湧かないと思いますが、記憶力、判断力を奪い、死期を早めることが分かっています。死に至る病気であるという点では、「慢性炎症」が引き起こす様々な病気と同じようにとても怖い障害なのです。

また、クオリティ・オブ・ライフという観点でも、著しく悪化するので、その点でも恐れるべき症状だと思います。

 

ところで、そもそも「不安」という感情がなぜあるかと言うと、もともとは物陰(木や岩の向こう側とか)に脅威となるような動物がいるんじゃないのかとか、この植物は食べたら危ないかもしれない、などのアラームを働かせるものとして備わったものと思われます。

人間の感情のなかでは、ネガティブな感情の方が、ポジティブな感情よりも強いことが分かっていますが、これは、上記の様に、古代の環境において生存の危機の対処に必要だったためと考えられます。

しかしながら、こうした古代の狩猟採集生活時代の「不安」は、「今」という「瞬間」における「不安」であり、長くても「今日」一日分の「不安」でしかなかったと考えられます。複数の調査によると、現代でも狩猟民族は、毎日「今日」を生きることに集中していて、明日以降のことはあまり考えないようです。

 

それが変化したのは、2万3000年前~1万1000年前に、農耕生活が始まってからと考えられています。農耕を行うためには、種を撒いてから収穫するときまで、先のことを考える必要が出てきますので、短くても数か月、長ければ1年先のことを考える必要が出て来たのだと想定されます。

この「時間間隔の変化」は、非常に大きな変化でしたが、それまでに備わった(そして今も備わっている)ヒトの不安システムは短期用のプログラムのため、うまく対処できていない可能性が高いのです。


さて、この「不安」への対処法については、「1.価値」、「2.死」、「3.遊び」の3つに分けて解説しています。

自分が何を大事にして生きるのかという「価値観」をどうやって明確にするのか、「死」とどの様に認識し向き合えば良いのか、生きる上での様々なこと(仕事・家庭・人間関係・など)に「遊び」の要素を含めるとどの様に効果があるのか、などを具体的な方法と合わせて解説しています。

 

先ほどと同様、内容は本書を読んでくださいなのですが、遊びの章に書かれていた「3のルール」(下記)はシンプルで即実践可能そうなので、早速取り組んでみようと考えています。

 3のルール

  • 今日やり遂げたいことを毎朝3つ書き出して実践する
  • 今週やり遂げたいことを週頭に3つ書き出して実践する
  • 今月やり遂げたいことを月初に3つ書き出して実践する
  • 今日やり遂げたいことを年始に3つ書き出して実践する
  • 毎週末にレビューを行い、上手く行った点を3つ、改善できる点を3つ書き出す

 


ともあれ、本書は全体的に論理的で分かりやすく、対策も具体的に書かれているので、読んで損はないと思います(部分的には、納得いかないところもありましたけどね)。

ただ、全部を実践しようとすると量が多くて破綻しそうなので、「炎症」と「不安」でそれぞれ1つか2つずつ実践に移していくと良いと思いました。

私自身は、「炎症」対策は「毎日の食物繊維の量を増やすこと」、「不安」対策は「3のルール」を実践に移してみようと考えています。

もしこのブログを読んで本書を読まれた方がいたら、ぜひ、1つで良いので実際に対処法を実践してみていただけたらと思います。


ではまた。

書感:最難関校ミネルバ大学式思考習慣(何を知らないかを知るためのツールですね&本を書くのは大変ですよね)

書籍『次世代トップエリートを生みだす 最難関校ミネルバ大学式思考習慣』を読みました。

 


米国の一流大学群(いわゆるアイビーリーグ)を抜く優秀人材の輩出校として突如現れたミネルバ大学での教育カリキュラムに沿った、機械に仕事を奪われる(AIに知的労働者の仕事すら奪われるかもしれない)時代を生き抜くのに必要な思考方法について書かれた書籍です。

これからの時代は「人にしかできないこと」ができる人材を輩出することが大学教育に求められることだと筆者は主張しています。 

では、その「人にしかできないこと」は何かというと、以下の3つだと言います(ここは異論ありそう・・・)。

  • 問題を発見、解決法を設計する
  • 複雑な作業を単純作業に分解する
  • 対立を調整する


ミネルバ大学では、1年次に(上記を含む?)これからの社会で必要とされる「実践的な知恵」を体系立って教えており、本書では、その内容を紹介・説明しております。

「実践的な知恵」は、大きく二つのカテゴリー(大分類)、四つのコンピテンシー(核となる能力)に分かれ、さらに各コンピテンシーごとに三つから四つの思考動作に分類されます(下図)。そして、更にその下に1~3階層程度の幅広い分野に応用できる考え方(コンセプト)が紐づいています。 

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実践的な知恵の構成要素(大分類)

 

コンセプトは、全部で113個あり、本書では一通り、それらの各コンセプトについて紹介しています。ただ、前半は丁寧に説明されているのですが、後半になるにつれてだんだん一つ一つの文量が減っていき、かなり竜頭蛇尾感があります。

また、筆者自身もあとがきで書いていますが、正直に言って、かなり読みづらいです。

 

まぁ、大学のシラバスの解説書みたいなものなので、ある程度読みづらいのは仕方ないのかもしれませんが、もう少しどうにかならなかったのかと思ってしまいました(実際にこれを書くのは大変だっただろうな・・・とは思うので、安易に批判するのも良くない気もしますが、個人の感想なのでお許しください)。


本書は、ミネルバ大学が考えるこれからの社会を生き抜くのに役立つ「実践的な知恵」の体系を知って、自分が強化したい領域や興味を持つコンセプトを見つけるために読むと良い気がします。

この書籍だけを読んで、各コンセプトを正しく理解し、実生活において活用できるほど習熟できるかというと、それは無理な話です(それができるなら、ミネルバ大学が不要になる??)。でも、自分がそもそも何を知らなくて、何を学ぶべきかを知ること自体は価値があることだと思いますので、それをチェックするためのツールとしては役に立つものと思います。


また、本書で取り上げられているコンピテンシーやコンセプトは、使いこなせれば役に立ちそうなものばかりでした(少なくとも、私がもともと知っていたコンセプトに関しては、経験上そうだと思います)。

 

 

さて、いつもは、読了した書籍の中で、役に立ちそうな部分を抜粋&サマリーして紹介しているのですが、本書は割とフラットに113個ものコンセプトが紹介されていて、そのどこかを抜粋するというのが難しいため、本書の企画と執筆、編集に関して感じたことを書いてみたいと思います(以降は、私の勝手な想像に基づく感想です)。

 

 

まず企画についてですが、本書の企画を担当された編集者と筆者は、恐らくミネルバ大学のユニークなありかたや実現しようとしているコンセプト、そして短期間にあげた目覚ましい実績を知って、その内容を日本にも広めたいと考えたのだろうな、と思います。

 

私自身、冒頭に説明されていたミネルバ大学の紹介(下記に抜粋)を読んで、自分が学生時代にこんな大学があったらチャレンジしてみたかったと思うくらいに魅力的でした(まぁ、学力面でも財力面でも、実際に受験しても合格もしなかったろうし、仮に入れても卒業できなかったと思いますが)。


ミネルバ大学の特徴

  • 校舎を持たず、世界の7つの国際都市を移り住む(異文化・多様性を理解)
  • 講義を禁止、テストを廃止。授業はすべて少人数のディスカッション(より効果的な教授法)
  • 最新の情報技術を活用した学習(ツールによるアシスト)
  • キャリア構築支援(あまり書いてありませんでしたが、超一流企業のインターンに行けるチャンスがあるようです)
  • 米国の有名大学の1/3~1/4の学費(約150万円/年:アメリカの大学としては安い)

ミネルバ大学が目指すのは、『まだ存在しないような職業においても役に立つ知識、覚えたらそれで終わりではなく、自ら発展させていける、思考・コミュニケーションスキル、つまり「実践的な知恵」を提供する』ことなんだとか(by 創業者)。

 

そして、1年次に全学生に共通して履修させる「実践的な知恵」は、全ての社会人に役に立つ、また、今の日本に必要なのではないか、との思いに駆られて、本書で紹介しようと考えたのだろうと感じました。

 

そして、体系的に定められた「実践的な知恵」なので、それを取りこぼすことなく網羅的に紹介しようと考えたのだと思いますが、本編が約280ページで、二つのカテゴリー、四つのコンピテンシー、十三個の思考動作、113個のコンセプト、計132個の要素を紹介するとなると、1要素あたり2ページ強(280ページ÷132要素)、実際には、導入部分や各章の区切り、図表なども含まれるので、もっと少ない文量で説明する必要があります(実際、終盤に登場したコンセプトの中には、十行未満で説明されているものもありました)。

これでは、各コンセプトの説明が薄くなってしまい、読者が各コンセプトを十分に理解したり習得するのは無理だと事前に分かっただろうと思います。

 

であれば、全コンセプトの紹介は、巻末についている一覧表の様に簡単なもののみにして、一部のコンセプトだけ深掘りして、ミネルバ大学が教える「実践的な知恵」がどの様に実社会で役立てられるのかを具体例を交えて紹介するようなことは考えなかったのでしょうか。

実際には、さまざま検討した上で本書の構成にしたのだと思いますが、その際の比較検討した案となぜ他の案にしなかったのかの理由に興味を持ちました。また、本書の説明は、結構、事前知識を要求するものが多く、最後まで読む読者がかなり限られそうに感じました(私は、ちょくちょく調べながら読んでました・・・(汗))。ので、対象読者の設定をどの辺に置いたのかも気になりますね。

 

もしかしたら、企画時点で考えていた出来上がり像と、実際に出来上がったものに乖離があったのかな?とか、いろいろ妄想してしまいました。

 

 

次に、執筆についてですが、前半の方が丁寧で後半になるにつれてだんだん内容が “あっさり” していった様に感じました。

コンセプト数でページ数をざっくり割り算すると、後半の方が1コンセプト辺りのページ数は多いみたいなのですが、後半の方が演習問題的な説明や例を使った説明が少なく、単なる項目説明が多くなっていった印象があります。

 

なので、後半の方は時間も押している中で、丁寧な説明を書くエネルギーが足りなくなってきたのかな・・・とか、「当初の予定期日を約半年過ぎて完成した」とあとがきに書かれていたので、途中、そうとう執筆するのに苦労したのかな、などと想像してしまいました。

私は書籍を執筆したことはありませんが、作業の締め切りに追われることは頻繁にありますし、大きなプロジェクトの場合、途中で息切れするような思いに駆られることもしばしばなので、読んでて(少し)胸が苦しくなりました・・・

 

最後に編集についてですが、本書は最近読んだ書籍の中では、かなり誤字や誤植が多かったです。一目見れば確実に分かるだろうって誤りもちょいちょいあったので、おそらく校正する時間がなかったんだろうなぁ・・・筆者も編集者さんも締め切り前はさぞ大変だったんだろうなと、入稿前の修羅場っぷりを妄想してしまいました。

この校正作業って、本人は気を付けて書いているつもりでも、なかなか気づかないものなんですよね。。。編集者さん側も、何度も読んだところだと、ちょっとした修正で誤字が混ざりこんでも、脳内で覚えているフレーズで補正してしまって、初見の人なら100%気付くようなレベルの誤字であってもスルーしちゃうんでしょうね。

で、それが活字となって直せない形で世に出されてしまうという・・・出版恐ろしや。

 

と、このように、書籍の内容の理解に奮闘するとともに、執筆・出版の大変さを想像しながら読んでしまいました(中身を理解するだけが読書じゃないから、良いですよね?)。


読むのが難しい書籍なので、無理にと言う気はありませんが、もし興味を持たれたら読んでみてください。

そして、コロナ禍の中で、いまミネルバ大学がどうなっているかも興味津々です。


ではでは。

書感:なぜか「仕事がうまくいく人」の習慣4.0(すぐやる! 全部やる! 繰り返す!)

書籍『なぜか「仕事がうまくいく人」の習慣4.0』を読みました。 

 

ホワイトワーカー個人の生産性に絞った能率向上プログラム(Personal Efficiency Program)を説明・解説した書籍の第四版(4th Edition)です。製造業のプロセス改善やチームや部門単位の生産性向上の施策ではなく、ホワイトワーカー個人の生産性に特化した手法であることが特徴です。今でこそ、個人の生産性向上のための手法もいろいろ提唱されていますが、この書籍の最初のバージョンが出た当時は、(調べていませんが)恐らく纏まった手法はとても少なかった頃ではないでしょうか?

 

私自身もこの最初のバージョンを若い頃に読み、非常に感銘を受けたのを覚えています。今回、たまたま第四版が出ていることを知り、入手し読み返してしまいました。UPDATEはされていましたが、本質的な生産性向上の考え方は変わっていませんでした。

第四版の出版は2009年で、今からすると説明に使われているツール類は古いところはありますが、有益であることは変わらないと思います。(ちなみに、当書籍で説明されている能率向上プログラムは、個人の生産性向上施策としてはかなり初期のものの一つであり、数十万人にトレーニングが実施された実績のある手法です)

 

とは言え、この書籍に書かれている具体的なひとつひとつの項目(下記)にはあまり目新しいところはないと思います。


◆基本的なお作法

  1. 作業環境の整理整頓(作業に必要な道具を揃える。きれいに整理整頓し、必要なものがすぐに見つかるようにする。その際に、溜まった書類やメールに関連する作業を全て処理するか、いつやるかを決める)
  2. 機械的に行う作業を決める(決まった時間にメールのチェックや配達物の処理などのルーティン業務を行う)
  3. 作業の計画を立てる(基本は週単位→日単位)
  4. 各作業をちゃんと終わらせる(先送りしたことは確実に実施できるようにリマインドする、任せた仕事は定期的に再確認する)

  +

◆各種Tips
 A. メールの処理
 B. ミーティングのやり方
 C. 改善(業務のやり方がより効率的になる様に日々見直し改良していく)
 D. モバイルワーク
 E. 管理者業務(歩き回りマネージメント)
 F. 整備(業務を効率的に実施できる環境の整備を定期的、かつ、頻繁に行う)

 

ひとつひとつの項目やTipsの中には、今となっては古いものも含まれているかも知れません。

しかしながら、この書籍の真骨頂は個々のTipsではなく、とにかく「すぐやる!」ことと「全部やる!」ことにあります。そして、「すぐに」「全部やる」ことを「繰り返し実施し良い状態を保つ+日々改善を続ける」ことにあります。

 

書籍の最初の方に書かれているのですが、仕事を「重要度(高・低)」と「緊急度(高・低)」に分けて考えるフレームワークは、結局は緊急度"高"の業務に駆逐されて「重要度高」の作業が終わらないどころか、先送りしたことにより問題が大きくなり、緊急度高の業務を発生させ続けることになるということです(趣意)。

 

そして、『「仕事がうまくいく人々」は”今すぐにやる”をモットーにしている。仕事をするうえで守るべき最も重要なルールは、いったん手にしてしまったら、もしくは、いったん目に留めてしまったら、その業務に対する取り組みを始めなければならないというものだ。』、『やるつもりがないなら、仕事に目を向けてはいけない。仕事を目に留めたなら、今すぐにやらなければいけない。』とも書かれています。


つまり、仕事を先送りすることよって生じる無駄と問題を未然に防ぐというのが、「すぐやる」方式の本質なのだと思います。

もちろん、その他のTipsも十分役に立ちますし、疎かにしてはいけません。魂(神)は細部に宿るというか、具体的に実践するための知恵が詰まっていますので。


本書にはさまざまなテクニックが詰まっているので、その全部を紹介することはできませんが、仕事の「先のばし」ぐせを退治する九つの鉄則というものを簡単に紹介しておきます。

  1. 書類を読むのは一度ですませる。
    メールや書類を読んだその時に処理してしまえば、"あとでやる"ときに読み直す必要がなくなる。2回読めば、読む時間は2倍になるし、後回しにしたことによって、督促されたり、問題に発展すれば、もっともっと処理に時間がかかるようになる。→これ、本当に役に立ちます。メール見た瞬間に返信するようにするだけで、あとでやるつもりで忘れてた・・・をかなり減らせます。

  2. 重要でない仕事を先に終わらせる。
    雑務(細々とした、"重要度の低い"業務)も溜まれば、精神的な負荷になる。
    やらなければいけないことがあると意識するだけで集中力がそがれる。
    また、たくさんある雑務に優先順位を付けるのは無駄な作業である。(溜めるから効率を考えないといけなくなる)
    物事というのは、やるべきか、やめるべきかのどちらかなのだ。

  3. 問題は小さなうちに解決する。
    大きな問題の大半は、小さいうちに解決しなかったことによって大きく成長する。(趣意)

  4. 仕事の邪魔になる原因となる業務を、真っ先に処理する。
    集中して仕事をしようとすると「邪魔が入る」のは、邪魔が発生する原因を潰していないから。(趣意)

  5. やり残したことを片づける。
    既に仕事が後手に回り、残務が溜まっている場合は、それをまず片付ける必要がある。(趣意)

  6. 過去ではなく、未来を目指して仕事を始める。
    業務が溜まっていると意識が過去に向いてしまう。現在・未来に意識を向けるためには、残務を片づける必要がある。
    わたしたちの意識の容量には限りがあるため、これは重要なポイントになる。

  7. 「時間がかかるから」を先のばしの言いわけにしない。
    本当にどのくらい時間がかかるかは、やってみないと分からないことが多い。(趣意)
    マーク・トウェインの言葉
    蛙を二匹飲み込まなければいけないときは、大きい方から飲み込むこと。それと、あまり長いあいだ見つめないことだ。

  8. 先のばしから解放されれば、もっと元気になる。
    「すぐやる」方式に従って、仕事を片づけていくことで、仕事から受けるおびただしい量のストレスと不安を追い払うことができる。
    より大きな自身がつき、自尊心にも磨きがかかるだろう。

  9. 意思決定における決断力を培う。
    一般に、成功を収めた人たちは、決断にほとんど時間をかけず、その決断を変えるときに時間をかける。
    ある時点を過ぎると、時間をかけたからといって、正しい決断をくだせる可能性が高くなるわけではない。
    全力を尽くしたとしても、決断したことの何パーセントかは、まちがいだったという結果になる。
    わたしは、決断力のある人たちが、まちがった決断をくだすのを見てきた。おもしろいことに、そういう人たちは、ほとんどいつも、自分たちの決断の意図するところ--つまりそれが目的なのだが--を、最後には実現してしまうのだ。
    決断をするという行為そのものが、その決断が正しいかどうかより重要で、その決断の結果にも、影響を与えると言っていい。

 

そして、間違った完璧主義より、『すぐやる』習慣を身につけることの方が重要なのだと。
「相手がわれわれに期待している品質とは、どの程度のものだろうか?」を考えれば、(もし出来上がれば)完璧だけど、出来てこないものを期待する相手は(まず)居ないことを認識するということですね。
また、相手が期待する品質は相手に聞いてみないと分からないので、まずは作って、さっさと見てもらうということも大事だと思います(個人のホワイトワーカーの作業なので、大量生産して後戻りできないということはあまりないハズ)。

 


ともあれ、私自身、若いころにこの書籍の初版に出会って、かなり影響を受けました。

「すぐやる」姿勢が評価され、同年代のメンバーよりも早めに昇格したり、実際に重要な業務を任せられたりと多くのリターンを得たと思います(仕事の好き嫌いも言いませんでしたし)。

新しい版では、多少、新しいツールのことが追加されたり、管理周りの話が追加されていた様に思いますが、それも役立ちそうです。また、個々のTipsも(例がやや古いのを除けば)非常に有用なので、ぜひ見ていただけたらと思います。

 

そして、読んだらぜひ書かれたことを「すぐやって」みてください。

 

ではでは。