書感:ザ・チョイス(最後の心理的障壁は、自分自身の感情かな?)

書籍『ザ・チョイス - 複雑さに惑わされるな!』を読みました。

 


エリヤフ・ゴールドラット博士の「Theory of Constraints (以後、TOC):制約条件の理論」に基づいた小説の第5弾です。


今回は、今までの架空の企業を舞台としたストーリーではなく、ゴールドラット博士親子の対話を通じて、これまで説明されてきたTOC(制約理論)を実践する上での心理的障壁をいかに取り除くのか?にフォーカスしています。

 

ゴールドラット博士が実の娘との対話を通じて、これまでゴールドラット博士が実現して来たような何らかのブレークスルーを伴うような問題解決をどうしたら実施できるのか、これまでゴールドラット社が実際に分析して来た企業事例に関するレポートをケーススタディに使いながら解き明かしていきます。

これまで同様、ステップ by ステップで何が問題でそれを解決するにはどうすれば良いのかを解き明かしていくので、読み進めれば(納得できるかどうかは別として)自然とロジックが分かるようになっています。

 

TOCを実践するにあたって、多くの望ましくない事象のコアとなる本質的な問題を特定し、そこの解決に潜む対立を解消するソリューション(解決策)を見つけ、最後にそのソリューションを実行に移す必要がありますが、ゴールドラット博士によると、それを妨げる3つの心理的な障壁があると言います。

 

それは、以下の3つです。

  1. 現実が複雑だと考えること(現実は複雑だという概念)
  2. 対立は当たり前で仕方のないことだと考えること。(対立は当たり前だと考えてしまう傾向)
  3. 人には、他人を責める習性があること。(人は、問題を相手のせいにしたがる)


1つ目の「現実は複雑である」という認識は、コアとなる問題を見つけるにあたって大きな妨げとなると言います。日常生活や仕事をするにあたって直面する様々な望ましくない事象を見ると、普通の人はつい「複雑」だと認識してしまいます。

ところが、自然科学(特に物理とかのことでしょうか?)の世界では一見複雑に見える事象もつきつめて原因を調べていくと非常にシンプルな法則に支配されていることが分かります(その最たるものが一般相対性理論でしょうか・・・)。ゴールドラット博士に言わせると、それは人間を対象にした社会科学にも当てはまると言います。

つまり、どんなに複雑に見える事象であっても、根本まで突き詰めればシンプルなのであると認識すれば、本質的な問題に迫ることができるし、「複雑」なんだと思っていたらそこまで(=シンプルになるまで)根本的な問題や原因を突き詰めないで諦めてしまうということでしょう。。。

 

2つ目の「対立は当たり前だと考えてしまう傾向」というのも同様で、ものごとに矛盾があり、対立が生まれるのは仕方がないことだと思っていれば、対立している事象を見たときに、対立する2つの事象や主張の両方を満たし対立そのものを解消するアイデアを考えようとはしないでしょう。

この2つについて、本書では、既に結構な業績を上げている大手アパレル企業の利益をいかにして5年で倍増(5億ドル→10億ドル)させるかという議論に対して、その4倍にする(=40億ドル)ソリューションを提言するレポートとそのレポートを娘のエフコットさんが分析することを通じて、実現可能であることを示します。

ここでの望ましくない事象は、需要予測に基づく1シーズン分の大量生産とその予測が外れることによる売れ筋商品の欠品と死筋商品の大量在庫であり、根本的な問題は、1シーズン分の需要予測をして大量生産していることです。

対立点は、半年以上前にあるシーズンの需要を高精度に当てることは不可能 vs 予測精度を高めないと売れ筋商品の欠品と死筋商品の大量在庫の両方を減らすことはできないという事になります。

この対立を不可避とする限り、この問題は解決できないのですが、そもそも予測できないなら予測しないで、実際に売れるかどうかを確かめてから、売れ行きの良い商品だけ追加生産できるようにすれば良いじゃないか、というのがソリューションの主旨です(もちろん、短期間で生産ができるか、配送を間に合わせることはできるか、とか実現可能性は確認しています)。

何万点もある商品を個品×サイズ×色の組合せごとに需要予測することが非常に困難であるという複雑な問題は、需要予測自体を止めるというシンプルなアイデアによって解決されますが、これは、本当の問題は複雑な需要予測ではなくもっとシンプルなことに原因があると考えることと、高精度な需要予測 vs 売れ筋欠品&死筋在庫 の対立も、この両方の問題を一度に解決するすべがあるハズと考えることがベースになって導き出されたものと言えます。

もし、大量のアイテムの個品別需要予測をしなければいけない=「問題は複雑」であると考えたり、需要予測 vs 売れ筋欠品&死筋在庫の「対立は解消することができない」と考えていれば、この答えに辿り着くことは無かったでしょう(現に、ゴールドラット社が関与するまで解決していなかった)。


3つ目の「人は問題を相手のせいにしたがる」については、上記の例で言えば、アパレル企業(=大手企業)が布地などを納入する下請け企業に対して細かい納品を求めた場合に、下請け企業が大手企業側の勝手な都合での要求をするかの様に見えるのではないか(=大手企業が悪い)と考えていたらこのアイデアの実行を躊躇したり、こうした提言をすること自体を躊躇するのではないかと言うことです。

書籍内では、別の事例で下請け企業側の立場の場合も説明していて、下請け企業側からアパレル企業向けに細かい納品をオファーするシナリオを示されていて、下請け企業側にもメリットがあることが示されています。

これらの例を見ると、相手側に視点を深く考慮せずに向こうは受け入れないのではないか?と考えてしまうと、目が曇り、正しい解決策を探し求めたり、実行するのを躊躇することにつながるということが分かります。

 


上記の様に、3つの心理的障壁を乗り越えることができれば、どれだけ複雑な問題であっても解決に至ることができるというのが、本書の主張です。

 

読んだ当初、理屈は分かるけど、どんな問題についても適用できるかということについては、「ホンマかいな?」というのが正直な感想でした。

そこで、その時点で私自身が直面していたプライベートな問題に適用してみることにしました。


ちょうどこの書籍を始めて読んだ当時、車の買い替えをしようと考えていたのですが、普段使いの使い勝手を考慮しコンパクトカーが良いという妻と、自分の趣味的な満足や長距離運転する際の疲労度を考慮し、一回り大きい普通車にしたい私とで意見が真っ向から対立していました。

そこで、これまでのTOCの理論や本書で解説されていることに従って問題の解決にトライしてみました。

両者に共通する解決したい問題は、いま乗っている車は10年を経過し古くなり安全性は高くないしドライブレコーダーもついていないので、より安全な車に乗り換えることと、万が一に備えてドライブレコーダーを付けたいということでした(もとの車にドライブレコーダーを付けるという選択もありましたが、10年以上経過した車に評価額に近い額をかけてドラレコを搭載しても近いうちに買い替えざるを得なくなるので、もったいない感が強い)。

 

対立している点は、普段使いする上では普通車サイズよりもコンパクトカーの方が取り回しやしやすいし、妻は大きめの車の運転に不安がある vs 私はコンパクトカーではドライブが楽しくない&たまに(旅行などで)長距離を運転する際に疲れる+高速道路の事故で時々あるトラックに突っ込まれるようなケースだとコンパクトカーは危ない、というものでした。

 

これに対する解決策は、私がドライブを楽しんだり、長距離運転する頻度は高くないことから、普段使いを優先して買い替えはコンパクトカーとし、たまに私がドライブしたり、長距離移動する必要があるときはレンタカーを借りるというものでした。

個人的には、所有欲を満たせない側面はありますし、レンタカーは状態にムラがあるという問題はありますが、頻度が低い私のニーズよりは、日常的な使い勝手の部分を優先し、一応は両者のニーズを満たす結果につながったかなと思います。


私のつたない事例はともあれ、ゴールドラット博士は本書の最後で、以下の信念に立てば、主体的に充実した有意義な人生を送れると主張しています。

 1.人は善良である。
 2.対立はすべて取り除くことができる。
 3.どんなに複雑に見える状況も、実は極めてシンプルである。
 4.どんな状況でも著しく改善することができる。限界なんてない。
 5.どんな人でも充実した人生を達成することができる。
 6.常にウィン-ウィンのソリューションがある。


これは、さまざまな問題や障害があったとしても、他人や環境のせいにせず&自分のコントロールの及ぶ範囲じゃないとか自分の能力を超えているなどと言ってはならず、自分自身の人生なんだから、自分ですべて責任を持たなければいけないという、結構厳しい意見なのですが、あらゆる問題を解決できるのだとしたら、素晴らしいことですよね。

 

あとは、3つの心理的障壁を越えるにあたっての最大の課題は自分の感情なのではないかと思います。

やはり、人間、問題があるとつい他人のせいにしたくなっちゃいますし、大局観に立とうとする際に邪魔になる、自分のプライドだとかこだわりを捨てるのは難しいものです・・・


ともあれ、今までの書籍と違ってやや哲学的な内容に突入していますが、TOCを実践する際にあたっての心理的障壁を理解するに必須なので、興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

 

ではまた。