書感:BRAIN DRIVEN(一朝一夕にはできないけど、試す価値はあると思います)

書籍『BRAIN DRIVEN[ブレインドリブン] - パフォーマンスが高まる脳の状態とは』を読みました。

 

本書は、応用神経科学をベースとしてモチベーション、ストレス、クリエイティブティの3テーマについて書かれた書籍です。

神経科学とは、比較的新しい学問で、脳を含む神経系を、細胞や分子の機構から紐解く学問だそうで、その知見を人間の理解や実際の生活にどう応用するかを探求するのが応用神経科学とのことです。

うーん。。面白そうだけど、難しそうだな・・・


初めのテーマはモチベーションなのですが、脳や神経の状態がどの様な状態になったらモチベーションが上がったと言えるのか、また、下がったと言えるのか、これを神経科学的に「脳のどの部位が活性化した」とか、「どこそこのドーパミンが増えた」などと分析していくことだけで解明できるのかというと、そうではないと筆者は言います。

『生命は系(システム)として成り立っているので、人間の脳の中にあるモチベーションに関する部分だけを見て解明できるわけではない。システムの中心となる部分に加え、それが相互作用し合うシステム全体を見ないか限り、モチベーションを語ることはできないはずだ。』と。

こう読むとそりゃそうだ・・・と思うのですが、日々、神経科学や応用神経科学を研究されている方たちは、こうしたことを分かった上で、実際にモチベーションが上がるときに脳内で何がどの様な順番で起きているのか、そのメカニズムはどうなっているのか、また、その後にモチベーションが下がるときには何が起きているのか?を、繰り返し繰り返し実験と観測を繰り返して分析してるんだろうな・・・しかも、本当にモチベーションが上がったのか、下がったのかを証明するのって、心(頭?)の中の出来事だけに、客観的に証明できるように論拠するのって非常に難しい気がします。

 


それはさておき、本書では、基本的なスタンスとして、神経科学の観点から「脳の中で何が起こっているのか(What)」と「なぜそうなるのか(Why)」の説明にフォーカスしていて、具体的にどうやってモチベーションを上げたり、ストレスに対処したり、クリエイティビティを高めたりするかの How については説明していません(ヒントと言う名の軽い How to はあります)。

 

まぁ、個々人の置かれた状況や、資質や性格も異なるのに、一律のHowが使えるかと言うとそれは難しいだろうし、多くのHowを列記するとどれが自分に合うか選ぶのが大変だし、あまり価値はないのかもしれません。

また、筆者は、神経科学の観点から言えば、ハウツーは与えられるのではなく、自分で創るものだと言います。これは、脳の大部分は、生まれ持って作られた機能よりも、生まれた後の経験や記憶によって発達(もしくは退化)したネットワークによって構成される為で、自分自身の経験に合わせたHowを開発しない限り、他の人(の脳)に合わせて作られたHowを使っても、前提となる経験や脳内構造が異なるので、上手く行くとは限らないからです(たまたま上手く行くこともあるでしょうけど)。

 

 

ともあれ、本書のテーマは、モチベーション、ストレス、クリエイティビティなのですが、これら3つに共通する大事な概念に「メタ認知」というのがあるので、そちらを先に書いて置きます。

 

メタ認知」とは、自分を客観的・俯瞰的に捉えることですが、なぜこれが大事かと言うと、例えばモチベーションをコントロールできるようになりたいと思ったとしても、自分自身が何に対して、もしくは、どんなシチュエーションに対してモチベーションを感じたり、下がったりするかを認識していないと、意識してコントロールすることはできないからです。同様に、ストレスコントロールやクリエイティビティの向上についても、メタ認知が重要になります。

ところが、このメタ認知は、かなり意識しないと出来ません。これは記憶のメカニズムに基づくのですが、例えば、最寄駅から自宅までの電柱の数が何本か聞かれて応えられる人はほとんどいないのではないでしょうか? 毎日同じ経路で、通勤・通学される方でしたら、全ての電柱は視界に入っているかと思いますが、意識して数えない限りその数を記憶することはありません。数値ではなくどこに電柱があるかだとしても曖昧にしか記憶していないと思います。

同様に、自分自身のことについても、意識して観察しなければ、記憶はされていません。特に、自分自身のことは、良く分かっていると錯覚しているため、ほとんどの人は意識的に自分を見ようとはしないそうです。(確かに、自分の体にあるホクロの数を言えと言われても分からんしな・・・顔にあるホクロですら何個かは言えない。ましてや背中とか見ようとしたことすら無い)

 

筆者曰く、『メタ認知の本質的な意義は、自分のことを客観的に、俯瞰的に見ることで、自分自身の脳に自分自身についての情報を書き込み、それによって「自分をもつ」ことなのである。自分の感じ方、考え方、ふるまい方を知れば、自分で感じ、考え、行動する、自律的な脳がはぐくまれるのである』だそうです。

書き方は難しいですが、自分を理解しなければ、コントロールなんてできないということでしょう。

モチベーションの向上、ストレスへの対処、クリエイティビティの向上のいずれにしても、このメタ認知をしていなければ、意識的に改善することは難しいので、理解&意識しておきたいところです。

 


では、そろそろモチベーションの高落のWhat/Whyについて入っていきたいと思います。

筆者は、そもそも「モチベーションとは?」ということで、以下の辞書の引用をしているのですが、神経科学的には、動機を与えることと、動因(動機の原因?)は別物なので、カオスな定義だと言っています。
 1.動機を与えること。動機づけ。
 2.物事を行うにあたっての、意欲・やる気。または、動因・刺激。(デジタル大辞泉小学館

例えば、ある人が「お金をあげるから〇〇を買ってきて」と頼まれて、実際に買い物に行ってきたとします。

お金はモチベーションかというと、お金が要らない人にしてみたら、それはモチベーションになりません。もちろん、お金をもらって〇〇を買ってきたのだけれど、その人の実際の動機は、相手に「感謝されたい」かも知れないし、「暇つぶし」をしたかっただけかもしれません。単に親切な人で、「誰かのために行動すること自体が嬉しい」という場合もあると思います。

なので、モチベーションを神経科学的に考える場合、
1.原因となる何らかの「刺激」があり
2.それを受けて関連する体内の環境が「変化」を催すことによって
3.「行動」に移る
という流れに分解されるそうです。

上記の内、1の刺激は「モチベータ」と呼びます。これは、外部からの刺激の場合もあれば、自分の頭の中の想像などの内部的な刺激の場合もあります。

そして、ある特定の脳部位にモチベータが届けられたときにおこる神経細胞の反応や、それに伴って放出される化学物質を総称して「モチベーション・メディエータ(仲介者)」と呼びます。

最後に、このモチベーション・メディエータによる反応を意識下に感じた状態、すなわち認知した状態(=何らかの行動を起こそうと意欲を持った状態)が「モチベーション」なのだそうです。

 

書き直すと、こうなります。
 モチベータ          = 行動を誘引する視点となる間接的な原因
 モチベーション・メディエータ = 行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態
 モチベーション        = 行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態

 

モチベーション・メディエータとモチベーションの違いは、やる気になっている状態と、やる気になっている自分を認知した状態の違いである。前者の行動を誘引する脳機能と、その状態を認知する後者の脳機能は別とのことです。

外的/内的刺激によりモチベーション・メディエータ状態には自動的になりますが、モチベーション状態には、自分で認知しないとなりません。

そもそも他人と自分のモチベーションのあり方は、DNAレベルで異なり、体験による記憶が異なり、脳の配線が異なる限り、大きく異なる可能性が高い。

自分のモチベーションが高まると言って、同じ要因によって他人も高まるとは限らない。その違いを受け入れて尊重し合うこと、モチベーションの多様性を受け入れることが、チームや組織としてのモチベーションを全体として高めるスタートラインとなるでしょうと、指摘しています。

 

続いて、筆者は、マズロー欲求段階説とは別に、脳の構造(中心部=本能的な部位→周辺部=人類が発達させてきた高度な脳機能領域)に従った欲求の段階として、神経科学的欲求五段階説を提示しています。

<後天学習型:無意識的に選択されにくい>
5.大脳新皮質:高次機能系(記憶処理系)
4.大脳辺縁系:学習系(記憶定着系)
-------------------------------------------------------------------------------
<先天DNA型:無意識的に選択されたい>
3.間脳:自律神経系(ホルモン系)
2.大脳基底核・中脳:快・欲=食欲/満腹、覚醒/睡眠
1.延髄:呼吸/体温/心拍/血圧


下の方に行くほど、生物が生きるために必要な機能となっており、それらに対するモチベーションが優先されやすい。

後天学習型の方は、脳内のネットワーク(シナプスのつながり)を変える必要がある為、多くのエネルギーが必要なこともあり、繰り返し学習させ、意識してあげないと脳内ネットワークが作られ・強固に結びつかないのだそうです。

脳と言うのは、「Use it or Lose it(使われれば結びつき、使わなければ失う)」仕組みなので、上記の4と5にあたる領域のことは、繰り返し意識して覚えさせないと、モチベーションが上がる状況も覚えないのでしょう。

また、脳内では、やる気の上がる下がるについては、以下の2つの成分の分泌量の多寡が影響しています。以下の2つがバランスよく分泌されることで、モチベーションが上がった状態になるそうです。

ドーパミン:SEEK(探し求める)→βエンドルフィン(脳内アヘン)
ノルアドレナリン:Fight or Flight(闘争または逃走)→コルチゾール(ストレスホルモン)


モチベーションのタイプやキッカケ、脳内で何が起きているかの仕組みなどについて整理して、こうした脳内の仕組みを上手く活用して、どうやってモチベーションを上げやすくするかについて、ヒントを記載しています。


ストレスについても、同様で間接的な原因と直接的な原因に分けられ、モチベーションと同じように、
 ストレッサー
 ストレス・メディエーター
 ストレス
に分けられるそうです。ストレスのキッカケとなるストレッサーには、外的なものと内的なものの両方があるのも同様です。

また、ストレスも、ストレスを受けている状態(ストレス・メディエーター)と、それを認識している状態(ストレス)に分かれるところも同じですね。ストレス・メディエーター状態になっているのに、ストレスとして自覚していない状態の人は鬱病になりやすいそうです。

違うのは、ストレスは、適切なストレスであれば、逆にパフォーマンスを向上させる効果があるということで、良い方にも悪い方にも作用するということでしょうか。

 

モチベーションは、パフォーマンスの高低に影響しますが、ストレスは対処を誤ると鬱病などの病気につながるだけに、より適切な対処が必要ですよね。。

 

特に内的要因=気持ちや考えに起因するストレスの場合は注意が必要なのですが、人間は何か良いことや嫌なことを思い出したときに、感情的な記憶も呼び起こされ、それは強烈な記憶として刻まれます。そうすると、強く記憶に刻まれた結果として、その嫌なことを思い出しやすくなるため、そのたびに不愉快な感情が発露し、負のループとなって加速的に精神状態を悪化させてしまう可能性があります。

その為、そうした負の感情が起きたときには、負のループに陥らない様に、おいしいコーヒーを飲む、好きな音楽を聞く、お笑い番組を見る、など、自分にとって楽しい気持ちを引きおこすルーティーン=ストレスの解消法があると良いでしょう(仕事中だとできることは限られそうですが・・・)。

 

ともあれ、良いストレスも悪いストレスも、どの様なメカニズムで発生するのかと、それをどうしたら軽減したり、上手に使いこなせるのかについて、多くのヒントが書かれています。

その前提として、ストレスを感じていることに気づくことが重要なので、自分の中で何かがおかしいという変化を感じ取ることと、自分にとってのストレッサーが何であるかを棚卸して把握しておくことが大事かと思います。認識していないまま強いストレスを受けると、うまく対処できずに自分の感情や行動を制御できないといった事態にもつながるので、注意しましょう。

大事なヒントとしては、他人に対しても自分に対しても、高すぎる予測値や期待値を持たないことがコツになります。高い期待を持つこと自体は悪いことではないのですが、それと現実に大きなギャップがあるとストレスになるので、予測値や期待値を柔軟にコントロールすることも、ストレスと上手に付き合うための大事なポイントになります。

 

最後にクリエイティビティについてですが、この書籍を読んで「そうなのか!」思ったのが、クリエイティビティというと多くの人は先天的な才能だと思っていますが、実際には、クリエイティビティに必要な脳の機能面で言うと、ほぼ全て後天的な要素になるそうです。

「クリエイティビティとは何か?」という定義も難しいのですが、本書では、「新しく、価値ある情報(刺激)を発揮する能力」としています。つまり、「新しい価値がある何か」を創造する能力がクリエイティビティと言うことになります。そして、新しい価値がある何かを生み出すには、新しくて価値がある何かを「創造するプロセス」と、それが実際に新しいか? 価値があるか?を「評価するプロセス」の両方が必要となります。ちなみに、両者は、全く異なる脳を使うそうです(そういえば、批評ばかり得意な人っていますよね・・・)。

 

ともあれ、こうした創造プロセスは、経験を積まないと上手にならないものですが、やっかいなのは、自分自身にとって新しいことと他人にとって新しいことは全く別の話であるということです。

新しいものを生み出すことは大変なので、その結果として良い評価を貰うような報酬がないと続きません。しかも、繰り返し経験しないと上手になっていきませんが、ある人が自分にとって新しい何かを創造したとしても、経験豊富な人や多種多様な人に対しても新しくて価値がある可能性は低いので、他人から評価される可能性はあまり高くないと思います(特に日本だと否定&批判文化なので、その傾向は顕著だと思います)。

つまり、クリエイティビティ能力は後天的な能力であるがゆえに、最初はうまくできない可能性が高い。よって、他者から評価される可能性も低い。

その為、一部の最初からある程度上手にできる人以外は、上手にできるようになるまで繰り返し練習したり能力を伸ばす努力を継続できないことが多い。その結果、最初からある程度上手にできる人以外は、なかなか努力を継続できずにクリエイティビティを習得できない為、クリエイティビティは先天的な能力と見做されがちであるということでしょう。

(一方で、批評する機会は山ほどある上に批評が下手でも非難されることは少ないので、批評するのは得意なのかもしれません・・・うーん。。。その辺は、ほめ上手な非アジア圏の方がクリエイティビティが高くなりやすいのかな??)

 

では、どうしたら創造プロセスを上手くできる様になるかについては、脳の働きを通じてどの様な時に新しいアイデアを創造しやすいかを説明しています。(内容は、「アイデアのつくり方[ジェームス・ウェブ・ヤング]」と大して変わりませんでしたが、そのプロセスを通じて、脳内で何が起きているかを説明しているのが特徴的でした)

 

 

ともあれ、本書全体を通して、自分が何にモチベーションやストレスを感じるのかを把握して、それを意図的に起動できるようにすることで、モチベーション&ストレスのコントロールをするというのは、取り組む価値があると感じました。

一部は既に実施していたことだなぁ、とも思いますが、あまり意識的にやっていたわけではないので、今後は意識してモチベーターやストレッサーを棚卸して活用して見ようかと思います。

また、クリエイティビティのところは、自分自身の実体験で感じていたことと重なることが多かったので、納得感は高かったです。ただ、自分が理解していなかった脳内の働きを知れたところもあるので、今後はそれを上手く活用できるかどうかですね。。。。

 

正直に言って、本書で書かれていることのHowのヒントにつながることの多くは、他の書籍に書かれていることと変わりません。

それを神経科学の知識をベースに書く必要がどのくらいあったのかについては、やや疑問があります。この書感ではほとんど出しませんでしたが、脳の各部位の名称や脳内物質の名前が頻出して読みづらくて、なかなか頭に入ってこなかったです。。

もし、本書を読む方が居たら、最初の方に脳内の名称を記載した図や、各部位の説明が注釈にありますので、それを見やすいように準備をしておくことを推奨します。一発で各部位の名称と役割を覚えられる方以外は、そうしないと非常に読みづらいだろうと思いますので。


ともあれ、モチベーションやストレスのコントロールに課題を感じている方、もしくは、自身のクリエイティビティを伸ばしたいと考えている方は、一読して見ても良いと思います。

あと、どうでも良いかもしれませんが、個人的には、本書のイラストは味があって好きです。


ではでは。